すべてはあの花のために⑦


 葵がアキラの手をもう片方の手で包み込んでくれる。


「……葵。金曜日のことを、シン兄にも少し話したんだ」

「…………」


 黙ってしまった葵にもお構いなしに、アキラはその時のことを話し出す。


「百合の生徒会との交流会があったことを話した」

「…………」

「生徒会長は道明寺 藍。副会長は日下部 薫。……その名前を出した時、シン兄がコーヒーを零した」

「へ?」

「だらだら口から零して、絨毯がシミになった。後処理も大変だった」

「そ、それはそれは。ご苦労様です……」

「それぐらいシン兄は動揺してた」

「……そう」

「でも、今の葵みたいに『そう』としか言わずにまた部屋に籠もった」

「…………」

「葵はつい最近知ったんだろう? でもシン兄は、前から知っていたんじゃないのか?」

「シントは、向こうの家にも仕事に出ていたから。きっと知っていたと思うよ」

「なんで葵に言わなかったんだ?」

「え? 息子さんがいるのは知ってたよ?」

「いや、どうしてミスターコン優勝者の奴と、息子さんが一緒なのを言わなかったのかって」

「……シント、ミスターコンとか知らないよ?」

「あ」

「まあ、わざと離して会わせないようにさせてたから、シントも二人のことをわたしには言わなかったんじゃないかな? って思うよ。もしかしたら『言うな』って言われてたかもだけど、それはシントに聞いてみないとわたしもわかんないや」


 にこっと笑う葵に、アキラは慌てて続ける。


「で、でも、シン兄の動揺は異常だった」

「それって、百合との交流会に驚いたんじゃなくて?」

「へ」

「だって今まで、言い過ぎかもしれないけど敵対してたわけでしょう? そのこともシントは知ってるっぽかったし。まさか交流会!? って驚いたんじゃない?」

「い、いや。多分、それもあるかもしれないが、名前を出した瞬間に驚いたと思うんだ」

「それだったら、二人が百合の生徒会をしてるのは知らなかったんじゃないかな。だってシント、3月いっぱいで執事解雇したし。それ以降に彼らが生徒会になってたなら、シントは知らないし、あそこって成績順でしょ? それにシントは驚いたのかもしれないよ?」


 そう言ってさらっと返事を返されているが、アキラも負けない。


「……シン兄を見つけて、お前のボイスレコーダーを聞き終わったあと、様子がおかしくなったのは言ったよな」

「うん。そんなこともあったね」

「バレたって言ってた。あいつらにじゃないのか」

「……? 何を?」

「だから、シン兄を解雇したこととか」

「えっと。シントはちゃんとお父様たちに解雇にしてくださいって言ったよ? だから二人も知ってるんじゃない?」

「それじゃあ、シン兄を建前でもいいから皇当主にして、俺との婚約破棄を計画していたことじゃないのか!」


 アキラは少し声を荒げた。