ドスの効いた声で、キサはシントに言いながら、鬼のような形相はトーマへと向けていた。
シント以外のみんなは、顔を引き攣らせながらゆっくりと静かに席に着く。カエデはそんなキサに心の中で拍手を送り、シントはキサにやさしい笑みを向けた。
「お疲れだったね。紀紗ちゃん」
そう言うシントに、キサはぷいっと顔を逸らした。
みんなはどういうことかと目を合わすが、問いかける前にシントが自分の方へと視線を集めた。
「生徒会メンバーに杜真くん。それから楓か。取り敢えず、みんなはどうしてここに来たのか教えてくれる? まず杜真くん」
まずはこんな状況になってる事態を把握するために、シントが説明を求めた。
「俺はアキから連絡があったので、葵ちゃん関係だと思って来ただけで、こいつらに何があったのかは知りません」
「そう、わかった」
シントは少し冷めたコーヒーを啜って、みんなの方へと視線を流す。
「どーせアキが言ったんでしょ? だからみんながそんな顔をしてるんだ」
「否定はしない。でも、俺はシン兄が帰ってきたことは、みんなに言ってもいいと判断した」
「どうしてそう思った」
だんだんと研がれるシントの雰囲気に、みんなは居心地が悪くなる。
でも、アキラも負けるわけにはいかない。拳に力を入れ、真っ直ぐにシントを見つめ返す。
「葵が、シン兄に伝えてくれと。そう言った時、みんながその場にいたからだ」
「だからって言っていいの。葵は言って欲しくないかもしれないのに」
食って掛かる質問にも、もうアキラは怯まなかった。
「葵は、みんなが来てからそう言った。だから俺は、この間のことは別にみんなに言ってもいいんだと思った。それだけだ」
アキラは真っ直ぐに答えるが、コーヒーを啜っているシントは伏し目になっていて、何を考えているのかわからない。
しかしそのあとすぐ、わしゃわしゃと頭を掻き混ぜるように撫でられた。
「いやー! 成長したな! さっすが俺の弟っ!」
「……痛い」
アキラは痛がったが、帰ってきてからまともにスキンシップをしていなかったから少し嬉しくもあった。
「そうそう。そういう判断って大事なんだ。茜くんも、よく頑張ってるみたいだね」
「……! おれ、は……」
「謙遜することはない。だって理事長のところへ、圭撫くんと千風くん、それから桜李くんも連れて行ってくれたんだから」
名前を出された三人とアカネは大きく目を見開いた。誰かが言ったのかと視線を交わすが、それにはみんな同じように首を振るだけ。
パンッと軽く両手を合わせ、シントはカエデの方を振り返りながらにっこりと笑う。
「さてと。……楓? 気になるのもわかるけど、こっからは俺らで話すから」
「えー」
「ダメダメ。楓は他のお仕事行ってくださーい」
「へいへい。……まあ何かあったら呼べ。すぐ来っから」
はじめは渋っていたものの、あっさりそう言って、カエデは部屋を後にした。



