すべてはあの花のために⑦


 そのあと、キサ、アカネ、オウリが回収し終わって帰ってきた。


「え。どうしたのこの状況……」

「え? 何でみんな、泣きそうな顔して震えてるの……?」

「絶対犯人はひーくんでしょ! ひーくん!! 覚悟ー!!」


 飛び付いたオウリを四人が止めようとするものの、すんでの所で間に合わず。


「ぐはっ」


 けれどヒナタは、あっけなくオウリにまたもやクロスチョップを食らわされ、ソファーごと引っ繰り返った。


「え? え?? ひーくん?? だいじょうぶ??」

「あ? え? オウリ? ……あーうん。大丈夫。目覚めた」


 寝取ったんかいと。よくわからないまま、集計の確認をすることに……。


「……関西ぶらり旅、ね……」


 決まったプランは、兵庫、大阪、京都を回る観光メインのぶらり旅。


「これって誰の案だっけー?」

「あいつの」

「そうなんだ! あっちゃん行けるといいね!」

「葵に一応連絡は入れておいてやろう。きっと喜ぶ」


 でもその日、葵からの返事は返ってこなかった。
 次の日も、その次の日も。葵と、それに付き添っているレンは学校に、毎日のように遅れて来た。

 その遅れはどんどん酷くなり、昼を優に過ぎ、午後の授業の途中だったものが、交流会をする前までには最後のHRになってようやく顔を出せるような状況だった。
 放課後の集まりには必ず参加している時の葵は至って普通で、みんなは、「大丈夫なのか」と。そんなことを聞くぐらいしかできないほど、完璧な『仮面』が葵を覆い隠していた。


 そしてとうとう、百合との交流会が始まる。



 4月下旬。時刻は17時を回ったところ。


「では、門でお待ちしておきます」

「行ってきますね」


 葵とレンは生徒会室を出て、百合の生徒会の二人を迎えに行った。


「……何か最近さー。アオイちゃん月雪くんとばっかり一緒にいるよねー」

「圭撫、それはしょうがないだろう。俺も寂しい」

「秋蘭? それ全然納得してないよね?」

「まあ、それだけあおいチャンのことが大好きなんだよ~」

「アカネは寂しくねえのかよ」

「寂しいに決まってるじゃん! でも、ちかクンほどじゃないかなー?」

「はあ!? 何言って」

「まあチカ、あいつのこと好きで好きでしょうがないもんね」

「ヒナタ?! ……ひ、否定は。しねえけど」

「え。今ので照れたの? きっも」

「いや、普通に傷つくー……」

「ちーちゃんしっかり!」

「チカ。ただの八つ当たりだから。気にしないであげてくれ」


 ここのところ、ヒナタも葵にしつこく付きまとうのはやめたみたい。代わりに、ずっと葵のことを睨んではいたけれど。


「(ほんと。心配なら言えばいいのに。不器用な弟)」


 まあ今話しかけてもスルーされる確率が高いけどねと、兄は思った。