「あおいさん? お隣いいですか?」
「はい。どうぞ? レンくん」
みんなを差し置いて、レンがさっさと葵の隣を陣取った。
「……流石にあれはやり過ぎじゃないんですか。みんなが戸惑ってるじゃないですか」
「はて。なんのことでしょう」
「……昨日泣いてたのは、あいつと何かあったのでしょう? せめて仕事中は話さないと、みんなに不審がられますよ」
「時すでに遅いと思います。今頃戻そうったって、逆に不審に思われますよ」
「……ま、私は監視する側なので別にどうでもいいですけど。あなたが『変わる』まで、きちんと仕事しますから)」
「そうですか。それは、……いつもすみません」
「はい? 何を謝られてるのか知らないですけど、私も新歓には出ないので。あなたが出られないのなら、私もそれに合わせて学校を休むので」
「――!? それはダメです……!」
急に声を上げた葵に、みんなが驚いて弾かれるように顔を上げる。それに気がついているのかどうなのか、葵はレンの手をぎゅっと握って、上目遣いで見上げた。
「レンくんも、きちんと体を休めてください。わたしの付き人のために、学校を休むなんてことしないで」
「あおいさん……」
「そう言ってくださってすごく嬉しいです。……わたしがいない間、みんなのことをよろしくお願いします」
そう言う葵に、みんなが泣き出しそうな顔になる。
「……はい、あなたが、そう仰るのなら」
「ありがとう、ございます」
そう言って二人はまたプランを考え始めたのだけれど。
「……そんなわけないでしょう。ばっちり付き添うので、よろしくお願いしますね」
「はあ。わかってますよ、それくらい」
「……あ。ちなみにですけど」
「ん? なんです?」
レンは耳元に手を添えて話しかける。今でも十分聞こえるというのに。
「……私のプランはロシアにしたいと思っています」
「……!!」
動揺はしないように気をつけたが、誰かは気がついてしまったかもしれない。
「私のが選ばれると、いいですねえ?」
「……っ」
口を引き結んだ葵は、ただ自分の手を悔しそうに握り締めていた。
それからというもの、ヒナタは葵に異常に話しかけてくることはなくなった。
「(さっすが姉ちゃんだ!)」
一体キサは何を言って、あのおかしくなったヒナタをおとなしくさせたのか。それは……不明である。



