すべてはあの花のために⑦


「あおいさん? お隣いいですか?」

「はい。どうぞ? レンくん」


 みんなを差し置いて、レンがさっさと葵の隣を陣取った。


「……流石にあれはやり過ぎじゃないんですか。みんなが戸惑ってるじゃないですか」

「はて。なんのことでしょう」

「……昨日泣いてたのは、あいつと何かあったのでしょう? せめて仕事中は話さないと、みんなに不審がられますよ」

「時すでに遅いと思います。今頃戻そうったって、逆に不審に思われますよ」

「……ま、私は監視する側なので別にどうでもいいですけど。あなたが『変わる』まで、きちんと仕事しますから)」

「そうですか。それは、……いつもすみません」

「はい? 何を謝られてるのか知らないですけど、私も新歓には出ないので。あなたが出られないのなら、私もそれに合わせて学校を休むので」

「――!? それはダメです……!」


 急に声を上げた葵に、みんなが驚いて弾かれるように顔を上げる。それに気がついているのかどうなのか、葵はレンの手をぎゅっと握って、上目遣いで見上げた。


「レンくんも、きちんと体を休めてください。わたしの付き人のために、学校を休むなんてことしないで」

「あおいさん……」

「そう言ってくださってすごく嬉しいです。……わたしがいない間、みんなのことをよろしくお願いします」


 そう言う葵に、みんなが泣き出しそうな顔になる。


「……はい、あなたが、そう仰るのなら」

「ありがとう、ございます」


 そう言って二人はまたプランを考え始めたのだけれど。


「……そんなわけないでしょう。ばっちり付き添うので、よろしくお願いしますね」

「はあ。わかってますよ、それくらい」

「……あ。ちなみにですけど」

「ん? なんです?」


 レンは耳元に手を添えて話しかける。今でも十分聞こえるというのに。


「……私のプランはロシアにしたいと思っています」

「……!!」


 動揺はしないように気をつけたが、誰かは気がついてしまったかもしれない。


「私のが選ばれると、いいですねえ?」

「……っ」


 口を引き結んだ葵は、ただ自分の手を悔しそうに握り締めていた。


 それからというもの、ヒナタは葵に異常に話しかけてくることはなくなった。


「(さっすが姉ちゃんだ!)」


 一体キサは何を言って、あのおかしくなったヒナタをおとなしくさせたのか。それは……不明である。