葵はまたベッドに逆戻り。顔の両側に腕をつかれ、彼に見下ろされる。
お互いが、睨むように視線を交えた。
「……へえ。仮面外れてるじゃん」
「何を仰っているのかさっぱりわかりませんね」
葵は最終的に両手首を掴まれ、押しつけられる。
「何をそんなに悩んでるの」
「……何を言ってるんですか」
「オレが聞いてあげる。ほら、言ってみなよ」
「……自分なら受け止められると、そう仰るんですか」
葵の顔から仮面は外れていた。代わりに般若顔になっていたけれど。
「……何そんなに怒ってるの。図星だからでしょ」
「馬鹿馬鹿しい。顔色なんて悪くありませんし、あなたなんかに心配されたくもありません」
ぴくり。ヒナタの顔が、苛立ちで歪む。
「別にオレはあんたの心配してなんかないし。みんなが心配してるから連れてきただけだし」
「だったら放してくださいよ。ハッキリ言って迷惑です」
「は? みんなのために嫌々あんたのことこうやって引き止めてるんだし。みんなにこれ以上迷惑かけるつもりなら、オレも容赦しないから」
ヒナタは葵の腕をベッドに縫い付ける。
でも葵の膝が思い切り鳩尾に入り、それの意味もなくなった。
「……っ」
鳩尾を押さえ、ヒナタは蹲る。その様子を、葵は見向きもせずにベッドから立ち上がった。
「……っ、なんで。みんなが、心配するじゃん」
「……そう、ですよね。やっぱり」
さっきの威勢はどこへ行ったのか。葵からこぼれたのは悲しそうな声。
「……ちょっとでも寝なよ。あんた、ほんと顔色悪いんだって――」
腹を押さえながら、ヒナタはゆっくりと立ち上がる。
そのまま葵の頬に手を伸ばそうとしたけれど、その手は容赦なく払い落とされた。
「ーーないでください」
「……は?」
「触らないでくださいって言ったんですよ」
葵の顔には、完全に仮面が戻っている。
「ーーてたのに」
「……ハッキリ言ってよ。聞こえないんだけど」
葵は、仮面を付けたままヒナタを思い切り睨み付けた。
「もう、わたしに関わらないでください」
「は? 無理だし」
「もう、わたしに話しかけないでください」
「それも無理。仕事あるし」
「もう、わたしに触れないで」
「……いやだ。触りたいから」
「もう! わたしに近寄らないでっ!」
「無理でしょ普通に」
「……もう、信じません」
「…………」
「あなただけはもう! 絶対に信じません!! だいっきらいっ……!」



