すべてはあの花のために⑦


 葵はまたベッドに逆戻り。顔の両側に腕をつかれ、彼に見下ろされる。
 お互いが、睨むように視線を交えた。


「……へえ。仮面外れてるじゃん」

「何を仰っているのかさっぱりわかりませんね」


 葵は最終的に両手首を掴まれ、押しつけられる。


「何をそんなに悩んでるの」

「……何を言ってるんですか」

「オレが聞いてあげる。ほら、言ってみなよ」

「……自分なら受け止められると、そう仰るんですか」


 葵の顔から仮面は外れていた。代わりに般若顔になっていたけれど。


「……何そんなに怒ってるの。図星だからでしょ」

「馬鹿馬鹿しい。顔色なんて悪くありませんし、あなたなんかに心配されたくもありません」


 ぴくり。ヒナタの顔が、苛立ちで歪む。


「別にオレはあんたの心配してなんかないし。みんなが心配してるから連れてきただけだし」

「だったら放してくださいよ。ハッキリ言って迷惑です」

「は? みんなのために嫌々あんたのことこうやって引き止めてるんだし。みんなにこれ以上迷惑かけるつもりなら、オレも容赦しないから」


 ヒナタは葵の腕をベッドに縫い付ける。
 でも葵の膝が思い切り鳩尾に入り、それの意味もなくなった。


「……っ」


 鳩尾を押さえ、ヒナタは蹲る。その様子を、葵は見向きもせずにベッドから立ち上がった。


「……っ、なんで。みんなが、心配するじゃん」

「……そう、ですよね。やっぱり」


 さっきの威勢はどこへ行ったのか。葵からこぼれたのは悲しそうな声。


「……ちょっとでも寝なよ。あんた、ほんと顔色悪いんだって――」


 腹を押さえながら、ヒナタはゆっくりと立ち上がる。
 そのまま葵の頬に手を伸ばそうとしたけれど、その手は容赦なく払い落とされた。


「ーーないでください」

「……は?」

「触らないでくださいって言ったんですよ」


 葵の顔には、完全に仮面が戻っている。


「ーーてたのに」

「……ハッキリ言ってよ。聞こえないんだけど」


 葵は、仮面を付けたままヒナタを思い切り睨み付けた。


「もう、わたしに関わらないでください」

「は? 無理だし」

「もう、わたしに話しかけないでください」

「それも無理。仕事あるし」

「もう、わたしに触れないで」

「……いやだ。触りたいから」

「もう! わたしに近寄らないでっ!」

「無理でしょ普通に」

「……もう、信じません」

「…………」

「あなただけはもう! 絶対に信じません!! だいっきらいっ……!」