すべてはあの花のために⑦


「ちょ、ヒナタくんっ!? わたしさっきから皆さんにすっごい白い目で見られてるんですけど……!?」

「そりゃそうだろうねー。その手首のネクタイとリボン見てみなよ。『あんたが何で全部持ってってんだよ泥棒』って思ってるに違いない」

「いやいや! わたしもリボン取られちゃってますから……!」

「そんなの知ったこっちゃないよねー」

「ええー……」


 そんな会話を延々と繰り返しながら、ヒナタに連れてこられたのは保健室だった。


「え? ヒナタくん、どこかお怪我を……?」

「は? 違うし。馬鹿でしょやっぱり」


 ガラガラと、戸を開けたところに教諭の影はない。


「保健室。男女。二人きり。……別にするつもりはなかったけど、条件が揃ったならやることは一つか」

「え? 一体何をす――」


 言いきる前にぐいっとネクタイを引っ張られ、葵はベッドに思い切り顔面をぶつけた。


「~~っ……。い、たたた……」


 受け身を取れなかった葵は、器用に手の平を開いて、両手で自分の顔面の様子を確認する。


「っ、もうヒナタくん! なんでこんなこと」

「うるさいな。ちょっとは静かにできないの」


 起き上がろうとしたら、ヒナタが組み敷くような形でベッドに手をついている。


「……何を、してるんですか」

「だから言ったじゃん。保健室で、二人きりの男女がすることなんて決まってるって」

「な、……何を、するんですか」

「それ聞いちゃうんだ。へー」


 ヒナタはネクタイを押さえつけたまま、葵のブラウスのボタンを外していく。


「……!? ちょ、ひなたくん何して」

「いい具合にあんた手縛ってるし。拘束プレイもオレは歓迎」

「はいー……!?」


 わけのわからないことを言われた挙げ句、何故かそのまま犯されそうになってるんですけどー……!?
 致し方なく力業を使うしかないかもしれないと思っていたら、何個かボタンを緩めたヒナタはベッドから降りて、葵に布団を掛けてくれる。


「え? ……ひなたくん?」

「あんた顔色悪すぎだよ」


 ベッドの横の椅子に座って、ヒナタの骨張った手が葵に掛けた布団をぽんぽんと叩く。


「みんな心配してる。……相変わらず冷たいし、そんなんじゃみんなの足引っ張るだけ。ちゃんと仕事もせずに、思い出も作らずに、学校休むことになるよ」

「(そんなの……)」


 ――そんなの、わかってる。


「ヒナタくんには関係ありません」

「……ふーん」


 掛けられた布団を剥ぎ取り、体を起こす。空気が一気に張り詰めた。


「わたしがお休みを戴くまでの間で何をしようと、あなたにとやかく言われたくありません」

「……へえ」


 葵は結ばれたネクタイとリボンを、器用解いていく。
 ただ無言で。ヒナタも、その様子を睨むような目つきで見ていた。