しかし、てっきりヒナタと葵を追いかけていくものだと思っていたけれど、みんなは二人を余所に、レンのことを未だに睨むように見つめていた。
「れんれん。ちょっとさ、話があるんだけどいいかな~?」
「私はないんだけどな」
「まあそう言うなやユッキー」
「柊が無駄にテンション高いと気味が悪いな」
「どういうことだよ……!」
結局のところ、チカゼは誰にでもいじられていた。
「ごめんね月雪くん。日向にあっちゃんのこと連れ出してもらったのは、あなたと話がしたかったからなの」
「……なんでしょう。と言っても、何となくは察していますよ。皆さん納得できていないお顔をされていますので」
「月雪。もう一度、お前が葵の付き人とやらになった経緯を話して欲しい」
「それはもちろん。何度でもお話ししますよ」
みんなはもう一度、用意された席に座って昨日聞いたことを問い質す。
「月雪くんはー、どうしてアオイちゃんの付き人になったんだっけー」
「月雪と道明寺の、提携関係でですね」
「どうしてお前はそんなことを提案したんだよ」
「月雪自体の存続がもう危うかったので、何とかしたいと思っていました。提携を結んでくれそうなところが道明寺だったので提案したまでです」
「だからって、自分を犠牲にしてまで会社のことを守りたかったの?」
「……あなた方に、何がわかるんですか」
空気が変わったレンに、みんなが動揺を示す。
「こっちは必死だったんです。それでようやく提携として首の皮一枚繋がった。私にとって道明寺は恩人です。もちろんあおいさんも。その恩人たちのために何かしたいと思うことの、何がおかしいんでしょう」
「れんれん……」
「あなた方にわかってもらおうなんて思っていません。絶対わからないでしょうし。……ただ、体調の悪いあおいさんのために何かしたい。それだけです」
「ユッキー。オレも、親の会社潰れたから、苦しいのはよくわかる」
「でも柊はまだ小さかっただろう? 私には会社を背負う責任がある。存続のためなら何でもするよ」
レンの力強い言葉に、強い意志に。みんなはそれ以上もう、聞くことなんてできなかった。
「もういいでしょうか。私はこれで失礼します」
レンはみんなに背を向け、壇上側の出入り口を開ける。一度だけ振り返ると、壇上にはどんよりした空気が流れていた。
それを見たレンは、ふっと口角を上げていた。



