ほろり。葵の仮面が一瞬剥がれた。
「あ、おい……」
「ありがとうチカくん。ちゃんと、あなたの誓い、聞きました」
「そっか。だったらまた、話そうな」
「……はい。そうですね」
和やかな雰囲気の二人のところへと、みんなが集まってくる。
そして今度はアキラが、自分のネクタイを葵の左手首へ。
「チカだけだったら、高いところのタンスからは守ってやれないからな。俺も葵からタンスを守る」
「……ちょっと待って? アキラくん。素で間違えてませんか? どうせならタンスから守ってくれませんかね」
「……た、タンスが、危ないと思って」
「じゃあ作者の打ち間違いってことにしておいてあげます」
次にカナデが、同じく左に。
「それじゃあ俺は、アオイちゃんの後ろを守ってあげよう」
「いや、カナデくんより後ろを取られて嫌な人はいません」
「あ。もしかして、アオイちゃん前からの方が好きなの~? 俺も前の方が実は好きなんだよー。苦しいけど、でも気持ちよさそうな顔してる女の子ってたまんな」
「武道家として、後ろを取られるなど一生の不覚です。即刻一本背負いをしてあげます」
「やっぱり俺の扱いって……」
次はアカネが、「それじゃあ、おれはあおいチャンの右~」続いてオウリが、「おれは左から~! あーちゃんを天敵のタンスから守ってあげるっ」と、葵の左手首に結んでくれる。
「(……タンスが天敵とか。なった覚えないんですけど……)」
「じゃあ、あたしがカナデの代わりにあっちゃんのバックを守ってあげるね?」
そしてキサまで、葵の左手首に自分のリボンを結んでくれる。
「きさ、ちゃん……」
「大丈夫! 大船に乗った気でいなさーい! この女王様が守ってあげるからねーん!」
ついつい嬉しくて、仮面が剥がれそうになる。
「はいっ。……誰かなんかより、よっぽど心強いですね?」
「アオイちゃんっ!?」
そんなカナデはスルーして。
「……葵」
シュルっとネクタイを解く彼の姿は、まるで本物のモデルのよう。
「だったら俺は、お前のそばじゃなくていい」
「ツバサくん……?」
左に結び終えたツバサは、すっと葵から離れて。
「そばじゃなくていい。ただお前を守れる位置にさえいられれば。……どんなタンスからでも、お前を守ってやるよ」
「……つばさ、くん……」
自信に溢れたツバサ、どんな強敵のタンスでさえ撥ね除けてしまいそうだ。



