すべてはあの花のために⑦


 ほろり。葵の仮面が一瞬剥がれた。


「あ、おい……」

「ありがとうチカくん。ちゃんと、あなたの誓い、聞きました」

「そっか。だったらまた、話そうな」

「……はい。そうですね」


 和やかな雰囲気の二人のところへと、みんなが集まってくる。
 そして今度はアキラが、自分のネクタイを葵の左手首へ。


「チカだけだったら、高いところのタンスからは守ってやれないからな。俺も葵からタンスを守る」

「……ちょっと待って? アキラくん。素で間違えてませんか? どうせならタンスから守ってくれませんかね」

「……た、タンスが、危ないと思って」

「じゃあ作者の打ち間違いってことにしておいてあげます」


 次にカナデが、同じく左に。


「それじゃあ俺は、アオイちゃんの後ろを守ってあげよう」

「いや、カナデくんより後ろを取られて嫌な人はいません」

「あ。もしかして、アオイちゃん前からの方が好きなの~? 俺も前の方が実は好きなんだよー。苦しいけど、でも気持ちよさそうな顔してる女の子ってたまんな」

「武道家として、後ろを取られるなど一生の不覚です。即刻一本背負いをしてあげます」

「やっぱり俺の扱いって……」


 次はアカネが、「それじゃあ、おれはあおいチャンの右~」続いてオウリが、「おれは左から~! あーちゃんを天敵のタンスから守ってあげるっ」と、葵の左手首に結んでくれる。


「(……タンスが天敵とか。なった覚えないんですけど……)」

「じゃあ、あたしがカナデの代わりにあっちゃんのバックを守ってあげるね?」


 そしてキサまで、葵の左手首に自分のリボンを結んでくれる。


「きさ、ちゃん……」

「大丈夫! 大船に乗った気でいなさーい! この女王様が守ってあげるからねーん!」


 ついつい嬉しくて、仮面が剥がれそうになる。


「はいっ。……誰かなんかより、よっぽど心強いですね?」

「アオイちゃんっ!?」


 そんなカナデはスルーして。


「……葵」


 シュルっとネクタイを解く彼の姿は、まるで本物のモデルのよう。


「だったら俺は、お前のそばじゃなくていい」

「ツバサくん……?」


 左に結び終えたツバサは、すっと葵から離れて。


「そばじゃなくていい。ただお前を守れる位置にさえいられれば。……どんなタンスからでも、お前を守ってやるよ」

「……つばさ、くん……」


 自信に溢れたツバサ、どんな強敵のタンスでさえ撥ね除けてしまいそうだ。