今度は生徒みんなに頭を下げ、葵は元座っていた位置に戻ろうとした。
『ありがとうございました。続いて月雪くん。お願いします』
その声に合わせてレンが立ち上がり、葵と擦れ違うところで腕をパシッと取られる。
「え? ……レンくん?」
「まだ終わっていないですよ」
そう言ってレンは、葵を自分の横に立たせ、話し始める。
至って普通の『頑張ります』的挨拶をぺらぺら。思ってもいないだろうに話す。
『最後に、ちょっとフライングですけど』
「(え)」
そう言うが早いか、レンが葵のリボンを解きはじめる。
「……れ、れんくん? 何を……」
「あなたは覚えていらっしゃらないんですかね、頭がいいくせに」
解き終わると、会場から悲鳴が上がる。
「ただのジンクスに過ぎませんが……あなたの卒業後が、とっても楽しみですね」
「……!!」
【新生徒会メンバーは、阻止できなかったら卒業後、恐ろしいことが起こる】
「でも、私も追いかけられるのは勘弁ですし、あなたに巻いておいてあげますよ」
もう、言葉なんて出ない。動けもしない。
ただ葵は、右手に結ばれる彼のネクタイと、彼の左手に結ばれた自分のリボンを、ずっと見ていることしかできなかった。
「……『地獄に落ちろ』ってね。そんな意味でも込めましょうか」
「……っ」
ちらりと司会のコズエを見ると、彼女もどこか薄笑いを浮かべながら。
『ありがとうございました。以上をもちまして、新生徒会の結成。及びお披露目式を終了します』
マイク越しに、そう言葉を発した。
コズエのその言葉を聞き終わる前に、講堂にいた生徒たちは、猛ダッシュで出口の方へと向かう。
「はは。馬鹿ですね。こんなジンクス信じちゃって」
「……」
「さて。これであなたも逃げなくて済みましたし、私もちゃんとあなたのことを監視でき」
レンは振り向きながら葵にしか聞こえない声で、口を動かさずにそう言うけれど……。
「……あれ。皆さん、急いで逃げなくてよろしいんですか?」
生徒会メンバーは誰一人として席を立たず、ただレンと葵を睨み付けている。
「……ユッキー」
のっそり、一番最初に動いたのはチカゼ。
「どうした柊」
「オレさ、抜け駆けはよくないと思うんだわ」
「あー。……これのこと?」
レンは、自分の左手首に結んだ葵のリボンを、みんなによく見えるように掲げる。
ただならぬオーラを、生徒会メンバーから感じたレンは思わず後退るけれど、ドスドスっと床を踏み鳴らしながら、逃がさないと言いたげにチカゼは二人に近寄る。
「ひ、……柊?」
「ちか、くん……」
チカゼは、自分のネクタイをシュルシュルと解く。
「オレは去年もやってるからな。……もう一度誓いだ、アオイ」
「……っ、はい」
チカゼは、解いたネクタイを葵の左手首に巻き付けていく。
「いいか、よく聞け。オレは諦めねえ。届くまで絶対だ。わかったか」
「……はい。ありがとう、ございます」
二人の様子を、ただレンはじっと見つめていた。
「オレがお前を、タンスから守ってやる」
「え。違いますよね、それ」
「何言ってんだ! タンスに小指ぶつけるほど痛いもんはねえ!」
「……わたしに振られるのは?」
「そ、そっちは精神的にくるだろうが。頼むからやめて、マジで」
「ぷっ。……あははっ」



