「……どういうことだ」
「道明寺と手を組むことができたら、月雪も存続の可能性があるんじゃないかと。そう思ったんです」
「存続、って……」
「九条さん。……実は、あまり公にはしていなかったんですが、月雪はもう危ない状態だったんです」
「だから、つきゆきクンはその家を何とかするのに、自分も手伝ったってこと?」
「はい。道明寺の方からも月雪の方へ。月雪の方からは私が道明寺へと赴いて、お互いを支え合う存在になれるよう少しずつ……悪く言えば人質みたいなものですけどね? そんなに悪いものではなく、お互い信用できるようになれば私も月雪に帰りますから」
「人質って……。ユッキー、道明寺に変なことされてないか!?」
「ひ、柊? 変なことも何も、すごくよくしてもらってるから、私があおいさんのフォローしたいって申し出たんだよ。なんでも、前の執事さんを解雇したって聞いたからさ」
「……そんな話、簡単には信じらんねえよ」
「く、九条さん……?」
普段よりも一際低い声のツバサに、みんなは驚きに目を見張る。
「悪いけど、何かその話俺は胡散臭くてしょうがない」
「ツバサくん?」
「なあ葵、ほんとのとこはどうなってんだよ。……何だよ、いきなり学校休むとか。俺は全然納得してねえ」
「……ツバサくんすみません。でも、レンくんの申し出を断らなかったのは事実です」
「アオイちゃん?」
「前の執事を解雇しましたが、……こんな体調なので、正直手を借りたかったので」
「でもれんれんは、あーちゃんが体調悪いのはさっき知ったんじゃ」
「あおいさんの付き人になるって提案した時から知ってはいたよ。知らなかったのは、『どうして生徒会メンバーが十人体制になったか』だから」
「レンくんも学生ですし、いろいろ大変ですから。手が借りたい時に、少しお願いをしてる程度で……」
「あっちゃんの家に、月雪くんは住み込みで付き人をしてるってこと?」
「そうですね。でも家には普通に帰る時もありますし、毎日ずっと一緒ってわけじゃないですよね?」
「うん、そうですね。……ほんと、いつもすみません」
「ああいえいえ。頭を上げてください。……こちらこそ、月雪のために無理なお願いをしてすみません」
「いえいえこちらこそうんぬんかんぬん……」
そうこうしていると、どうやら迎えの時間になったらしい。
「おい。また迎え呼んでんのかよ」
「はい。こんな体調なので、家も気に掛けて寄越してくれるんです」
レンと二人、裏門の方へと歩いて行く。その背中に堪らず、ツバサは声を掛けた。
「……っ、葵!」
でも、振り向いた葵の顔には、ばっちり仮面が着いていて。
「っ、カードのこと! 覚えてるか!」
「……。……はい。もちろんですよ、ツバサくん」
「必ずわかる! だからっ、また話をさせてくれ!」
葵は微笑み、深くお辞儀をして、レンとともに帰宅していった。



