「……どう、して……?」
長い沈黙を、キサの震える声が破る。
「2年生の皆さんはご存じないかと思うのですが、……最近わたし、遅れて学校に来ていまして」
「そう、だね。あおいチャン、最近よく遅れて来てた」
「でもさ、昨日も今日もちゃんと来てたじゃん? それと学校休むの、何が関係あるのー?」
「……ご心配をかけたくなくて言えなかったのですが。あまり、体調がよくないんです」
「――!?!?」
隣にいたツバサは、急いで葵の手を掴む。やっぱりその手は冷たすぎて、冬の海のようだった。
「……ッ、これが原因か」
「ツバサくん……」
悔しそうに顔を歪めながら、ツバサは自分の体温を分けるように葵の手を握る。
「……実は、流石に体調がおかしいわたしを家も気にしていまして、少し学校を休んで療養することに」
「俺との結婚を白紙に戻したのは……」
「結婚をする前に、一度体調を戻してから、という結論にも至ったためです」
「葵……」
「本当に、こんな形で報告することになってしまい申し訳ありません」
悲しい話に、その場の空気も重くなる。
「そうか。だから、私はあおいさんが療養から帰ってくるまでの穴埋め、ということになるんでしょうか」
「もうちょっと言い方が。せめて中継ぎぐらいで……」
「え? でも、帰ってこられるんでしょう?」
「その、つもりですが。……いつになるのかはわからないので」
また悲しい話に、どんよりとした空気が流れる。
「……いつだよ」
「チカくん……」
「あーちゃん? いつから学校を休むの?」
「ハッキリとはまだ。ただ、体調が体調なだけに、理事長とは事前にお話しをしていました。もしわたしがまた選ばれるようなことがあれば、次に投票が高かった人も生徒会メンバーに入れて欲しいと」
「大体の時期とかは? ……あっちゃん急にそんなこと言うんだもん。悲しいよ」
「わたしも、急に決まったことなので驚いてはいるんですが、元気になって、早くみんなに会いたいので頑張ります。なので時期は……そうですね。『桜が散るまで』には。きちんと、最後までお仕事したいなと」
「そんなっ。アオイちゃん、そんなになってるのに、仕事なんてさせられないよー……」
「帰ってきた時にもうみんながいない。……それは嫌だったんです。折角またこうしてみんなと一緒に生徒会ができるなら、ちゃんと思い出を作りたいなって」
みんなは、押し黙ってしまった。
「それじゃあみんな。最初の思い出作りに、隣の部屋に行って、御馳走でも食べよう」
理事長がそう言ってくれたおかげで、みんな重い腰を上げてぞろぞろと動き出すが……。
「(あー。ま、そうですよね~……)」
みんなは、納得していない様子で睨みつけてくる。
でもその中の数人は、どこかゲームを楽しんでいるかのように、薄笑いを浮かべていた。



