すべてはあの花のために⑦


「あれ? 先生がいるー」

「あら東條くん。あなたは何にする?」

「おれらが勝手に作るので、先生は座っててください~」

「え? 二宮くんいいのにい」

「いいですよ。先生は何にしますか?」

「九条くんまで~。……それじゃあ、お言葉に甘えちゃおっか」

「俺のお勧めはイチゴオレです」

「それじゃあ、皇くんのお勧めにしちゃおう!」

「あっちゃんのも作ってきてあげるね。コーヒーでいい?」

「キサちゃん、わたしも作りますよ」

「ううん。いいよー座ってて」

「……はい。それじゃあ、ブラックを一つ」


 葵がそう言うと、「りょうかーい」と、キサたちは飲み物を作りに行った。
 飲み物が準備でき、みんながソファーや椅子へと腰掛け、理事長が話し出す。


「それでは改めて……今年度の新生徒会に選ばれた十人の皆、よく来てくれたね。私は理事長の海棠実。この桜ヶ丘の小・中・高校をまとめているよ」


 去年とほぼ同じ言葉を使って話す理事長は、毎年このように話しているのだろう。


「今回、君たちは生徒会のメンバーとして多くの投票数を獲得して選ばれたわけだが、問題無いかな?」


 そして、同じようにそう確認するのが定番なのだろう。
 問題無いのか、みんな言葉は発さずに頷く。昨年のことがあったからか、その後すぐ少し心配そうな視線が葵に集まる。


「はい。問題ありません、理事長」


 みんなは、ほっと安堵の息を吐いていた。


「よし。それじゃあさっそくだけど、歓迎会と親睦会を」

「理事長、問題は全然ないんだけどよ」

「ん? 何かな? チカくん」

「いや、なんで今年は一人増やしたんかなと思って」

「そうだよ! 今まではずっと固定で九人だったでしょ? あーちゃんのお仕事の負担が減るのはいいことだけど、何でかなと思って!」

「そうだね。オレも知りたい」

「確かに。差し支えなければ、私にも教えていただけませんでしょうか、理事長」


 2年生組の質問に、他のみんなも頷いている。


「それは、わたしから説明します」

「え? あっちゃん……?」


 それには理事長ではなく、葵が答えた。


「……葵? どういうことだ」

「はいアキラくん。“もうちょっと待ってくれた”ので、きちんとお話ししますね?」


 葵は微笑んでゆっくりと話し出す。


「まず、アキラくんとの結婚は、申し訳ないですが道明寺の方からお断りを入れさせていただきます」

「……あ、葵?」


 あれだけ、アキラとの結婚はほぼ決まったものだと言っていたはずなのに。


「いろいろ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ちょっと、わけあってこの話は白紙に戻させて欲しいんです」

「い、いや。それは全然構わないんだが……(元々そうするつもりだったし)」


 でも、どうして向こうから断りを入れられるんだ……? 


「へー。そんなあっさり諦めるんだね、アキくんとの結婚のこと」

「はい。申し訳ありません」

「おま、……あれだけアキが好きだとか何とか言ってたじゃん!」

「そうなのですが、もう一度よく考えた結果、道明寺の力が弱いことでわたしがアキラくんの……皇の負担になってしまうのが嫌だったんです。なので、取り下げてもらうよう家にお願いをしました」


 葵の口から『家』と出ると、みんなの顔が険しくなる。


「本日中に書面がそちらに届くと思いますので、アキラくんは確認をお願いしますね」

「あ、ああ。それは、わかったが……」


 でもきっと、先にシントが確認しているに違いない。


「あーちゃん。それと生徒会が十人っていうと、どう関係があるの?」

「……非常に言いにくいのですが、みんなにきちんと知っておいていただきたいので」


 葵は、申し訳なさそうに微笑んだ。



「しばらく、学校をお休みさせていただくんです」