しんと静まる中、凜とした声が、小さく響いた。
「……怖い、ですね」
「紀紗ちゃん……」
「あたしは絶対あっちゃんのこと嫌いになんてならないし、ましてや殺そうだなんて、そんなこと思うわけない。ちゃんとあっちゃんのことを知って、わかってあげたいって、そう思ってます」
「でも」と、キサは苦しそうに声を紡ぐ。
「あっちゃん前、言ってたんですよ」
『でも。その人の気持ちなんてわからないからっ。大丈夫だって。思ってて。……嫌われちゃったら。わたし。どうしていいか。わからない』
「その時は『信じて』って言いました。もちろん今も思ってます。でももし、そんなことを思ってしまったら……。そう考えてしまう自分が、あたしは怖いんです」
「……あいつさ、前言ってた」
キサの言葉を聞いて、チカゼが話す。
「『人の気持ちほど、変わりやすいものはない』って。……そう言ってた」
「チカ……」
「それを心配してんだろ? キサ。あいつもそれを一番心配してんだ。オレらの気持ちが変わって、あいつのこと嫌いになるかもしれねえ。でも『信じてる』って、そう言ってたんだ。一番不安なあいつが、そう言ってたんだ。……オレらもさ、信じよう。あいつのこともだけど、自分自身をさ」
「……ふふ。キザ」
「うっせ」
でも、キサもどこかスッキリした面持ちで小さく笑ってた。
「助かった弟よ」
「だから、なんで素直に『ありがとう』って言えねえんだよ」
「あんたになんかくれてやる感謝なんかないわよ」
「今いいこと言っただろっ?!」
けれど、本当にチカゼの言葉でキサだけでなく、どこか不安を抱えていた人の気持ちも晴れたようだ。
「(……どうやらみんな、踏み込む勇気が、できたみたいだ)」
確かに少し、脅し気味に言っていた部分もある。
「(でも、それだけ本当に危険なことなんだ)」
自分だって、葵を助けてやりたい。
でも、葵を『あそこから出してやる』だけじゃあ、葵はまた『あそこに戻ってしまう』だろう。
「(葵の根本を変えないと、あいつは絶対に助けらんない)」
それには、みんなが必要なんだ。だから理事長は、彼らを選んだ。
「それじゃ、俺の連絡先はこれだから」
シントはそう言って、みんなに自分の連絡先を教えてやる。
「個人的に聞きたいことがあったら、いつでも連絡しておい――」
言い切る前に電話が鳴る。
「あ、あのさ日向くん……? 俺ぶっ通しでやってたから疲れてんだけど……」
「そんなの知りませんけど」
「ち、ちょっとだけさ? 時間頂戴? 今日は……そうだね、やめよう? 明日ならいいから」
「じゃあ明日の0時に掛けるんで」
「(わあ~……。絶対寝させてもらえそうにないから、みんなが帰ったら即刻寝よ……)」



