すべてはあの花のために⑦


「信人さん。さっきのカードのことなんですけど……」


 そう切り出したのはツバサ。


「うん。何?」

「信人さんは、それを見てわかったんですか? あいつが、何を伝えたいのか」

「え? うん。……え。まだわかってないの翼くん」

「俺、こういうの得意じゃなくて。……人間誰しも、不得意としてる分野はありますよ」


 でも、恐らくだけど、わかっている人はこの中にはいるはず。今ここで言わないだけで、自分に何かを聞いてくるに違いない。


「ちょっと、あいつが言ってることよくわかんなかったんで、わかった信人さんから、何が書いてあるのか。少しでも言えたら教えて欲しいんですけど……」


 きっと、わかりたくてもわからなくてイライラしているんだろう。そう頼むツバサは苦しそうだ。


「聞きたいのはわかる。でも、これが葵の限界なら、俺がそれを崩しちゃいけない。聞きたいのなら、もう一度葵に聞いてみなさい?」

「……はい。すみません」

「謝らなくていいんだよ。だって、もう君は踏み込めるから」

「……っ、はい。ほんと。お礼言いたいんですけど、言わせてくれないんで、あいつ」

「……そっか。大丈夫だよ、きっと何度でも教えてくれるからね。言える範囲で。……だから、わかってやって?」


 ツバサはただ頷いただけ。


「(まったく。受け取るぐらいすればいいのに。……ほんと、一番やさしいのはお前なのにな……)」


 何故お礼を言わせてくれないのも、シントはもちろんわかってる。ただ、たとえ『願い』を叶えるための根本の理由を知ってもどうか、葵のやさしさを忘れないで欲しい。


「シントさん。あいつからの感謝状って、見せてもらったりできないんっすか」

「え? そんなに見たいの?」

「手当たり次第何でも知っておこうと思って」

「(別に、特に変わったことなんてないんだけど……)」


 シントは、記念に撮ってスマホに残していた写真をみんなに見せた。もちろん実物は、額に入れてお部屋に飾っています。何せ宝物だから。
 特に変わったことは書かれてなかったので、みんな早々にシントにスマホを返却。


「しーくん? あーちゃんからもらったのって、これだけなの?」

「……確かに。これには、シントさんがアオイちゃんから受け取った仕事内容は書いてないですね」

「それと、シン兄が今まで部屋から出てこなかったこと、何か関係があるのか」


 どうやら、ここを出てここへ帰ってきたことに関しての質問は、取り敢えずは終了したらしい。


「(……さてと。それじゃあ、『最後のお仕事』といきますかね)」


 と言っても、そんなにほいほい見せられるわけじゃない。


「葵には、それ以外に俺の記憶を思い出させてくれた、そして最後の仕事を与えてくれたボイスレコーダーをもらった。一度しか聞けないものだったから、聞かせてあげられなくてごめんね」

「……信人さん。あっちゃんから頼まれた最後の仕事って……」


 みんなをぐるっと見渡して。


「実際葵からもらった仕事は、建前でもいいから俺が次期当主になり、アキとの婚約を破棄させることだ。でもそれは……いや、それは置いておいて。葵には直接仕事をもらったわけじゃないけど、これは俺の判断だから、俺はやることにする」

「……言ってる意味が、わかんないんですけど……」


 トーマと同じように、みんなも首を傾げている。


「……みんなに、葵が『願い』を叶えた根本の理由を、見せるよ」