「…………。ん。っ……」
「……はな」
初めはゆっくりやさしく。何度も何度も触れる。
「……今までのこと、全部忘れるから」
「……っん。え。……ん」
少しずつ。触れる時間が、長くなる。
「……オレももう、ハナが好きなんて言わないから」
「……。ひなっ。んっ……」
「これが最初で最後。……ハナはレンのこと、好きになるよ。きっと」
「ひな。……んっ。ふあっ……」
深くなる。熱くなる。
「……お姫様は、助けに来てくれた王子様に、恋するから」
「……。はっ。んっ。ふ……」
「そして幸せになるんだから。……だから、キスもこれで最後。王子と幸せになって。ハナ」
「はあ。……ひなた。くん……」
最後に一度だけ。ギリギリまで目は閉じずに、ゆっくりと。これ以上ないほどの愛を、落とした。
「はあ。はあ……」
息を荒くする彼女を、そっとベッドへ横にして……ぽとり。さっきは半錠しか入れなかった薬を、今度はきちんと一錠、香水の中に落とす。
「はあ。……い、や。ひなたく……」
泣きながら止めてくる声に、自分も涙が込み上げてくる。
でも、決めたんだ。自分は王子になんかなれやしない。お姫様を助けるのは――……オレじゃない。
「さよなら、ハナ。オレはずっと。これからもずっとハナだけが。……あおいのことだけが、大好きだよ」
ハンカチで口元を覆い、そっと彼女に香水を吹きかける。
酸欠で息を荒くした彼女は、すぐにそれを吸い込んでぐったりと体をベッドへ沈み込ませた。
「…………はな」
これでもう、思い残すことはない。
「……はなっ」
自分が想いを告げることも。……今のことを、思い出すことも。
「……おもい。だす、から……」
「え……」
彼女の瞳から、そして自分の瞳から、一筋の涙が最後に零れて落ちる。
「……ひなたくんの。こと。……おもい、だす……」
「……はな……」
「……だ、から。……また、おしえて……?」
「……わかった。じゃあ。思い出せたらね」
そっと、彼女の頭を撫でてやったら、嬉しそうに頬を緩ませた。
「……。もう。いっかい。言って……? ……。……って」
そして最後に小さな願い事を残して、彼女は規則正しい寝息を立てだした。



