すべてはあの花のために⑦


「…………。ん。っ……」

「……はな」


 初めはゆっくりやさしく。何度も何度も触れる。


「……今までのこと、全部忘れるから」

「……っん。え。……ん」


 少しずつ。触れる時間が、長くなる。


「……オレももう、ハナが好きなんて言わないから」

「……。ひなっ。んっ……」

「これが最初で最後。……ハナはレンのこと、好きになるよ。きっと」

「ひな。……んっ。ふあっ……」


 深くなる。熱くなる。


「……お姫様は、助けに来てくれた王子様に、恋するから」

「……。はっ。んっ。ふ……」

「そして幸せになるんだから。……だから、キスもこれで最後。王子と幸せになって。ハナ」

「はあ。……ひなた。くん……」


 最後に一度だけ。ギリギリまで目は閉じずに、ゆっくりと。これ以上ないほどの愛を、落とした。


「はあ。はあ……」


 息を荒くする彼女を、そっとベッドへ横にして……ぽとり。さっきは半錠しか入れなかった薬を、今度はきちんと一錠、香水の中に落とす。


「はあ。……い、や。ひなたく……」


 泣きながら止めてくる声に、自分も涙が込み上げてくる。
 でも、決めたんだ。自分は王子になんかなれやしない。お姫様を助けるのは――……オレじゃない。


「さよなら、ハナ。オレはずっと。これからもずっとハナだけが。……あおいのことだけが、大好きだよ」


 ハンカチで口元を覆い、そっと彼女に香水を吹きかける。
 酸欠で息を荒くした彼女は、すぐにそれを吸い込んでぐったりと体をベッドへ沈み込ませた。


「…………はな」


 これでもう、思い残すことはない。


「……はなっ」


 自分が想いを告げることも。……今のことを、思い出すことも。


「……おもい。だす、から……」

「え……」


 彼女の瞳から、そして自分の瞳から、一筋の涙が最後に零れて落ちる。


「……ひなたくんの。こと。……おもい、だす……」

「……はな……」

「……だ、から。……また、おしえて……?」

「……わかった。じゃあ。思い出せたらね」


 そっと、彼女の頭を撫でてやったら、嬉しそうに頬を緩ませた。


「……。もう。いっかい。言って……? ……。……って」


 そして最後に小さな願い事を残して、彼女は規則正しい寝息を立てだした。