頬を何度もやさしく撫でて、彼女から溢れ出る涙を拭ってやる。
「……な。んで……」
「ん?」
涙を流しながら、どんどん無くなっていくはずの力に、重たくなっていくはずの目蓋に抗いながら、彼女は必死に尋ねた。
「……なんで。そこまで。してくれるの……っ」
「ハナ……」
「ほんと。あぶない。からっ。……。いやだよ。ひなたくん。こんなこと。やめて……」
「…………」
「……。だめだよっ。……ひっく。……もう。だれも。傷つけたくなんて。……ないんだっ」
「……ハナ? 犠牲じゃ、幸せになれないって言ったでしょ」
なんでと。なんでそれを、君が知ってるのと。
溢れてくる涙とともに、彼女は瞳だけでそう聞いてくる。
「幸せに、なるんでしょ? ハナ」
「……。ひな」
「オレがぜーんぶ、変えてあげるから」
「……。なんで」
「オレがハナのこと、幸せな道に連れて行ってあげる」
そっと、彼女の小さなおでこにキスを落とす。
「……。っ……かいとう。さん……?」
「……ん、まあなんとか仮面よりはいいけど」
今度は、こめかみ。そのあとは耳に落としたあと、甘く噛みつく。
「んん……っ」
「何もかもから。ハナのこと、オレが救い出してあげる」
息を多めでそっと囁くと、彼女の体がびくっと反応する。
それが可愛くて。愛しくて。ずっと自分の腕の中に閉じ込めておきたくなった。
でもこれは、最初で最後の『告白』だ。
もう、決めたんだ。こんな自分が、彼女のためにできること。
「だから、ハナはただ信じて待ってて。オレのこと、ただ信じてて」
「……ひなた。くん……」
「ハナが信じて待っててくれるだけで。……オレは。それだけで十分だから」
「ひなた。くん……?」
思ったよりも、声を張れなかった。少し掠れた。
けどこれは、もう忘れてしまうであろう彼女への『告白』だ。
愛じゃない。偽ってきた、自分の『告白』。
彼女が忘れてでも言いたかった、本当の自分の正体のだ。
自分の心すべてを占めている想いなんて。……知らなくていい。知らない方がいい。
「……。いなく。なんない……?」
「え……?」
動かないはずの彼女の手が、自分の頬に添えられてくる。
「……しんじ。てる……」
「ハナ……」
「でもっ。……しんじるの。こわい……」
「……大丈夫だよ」
そっと、おでこを合わせた。……安心して。大丈夫。
「あんたのご主人様が、できないことなんてないんだよ」
「……。ひな……」
「だから、信じて待ってて? 下僕を救い出してあげるよ。あの監獄から」
「……そもそも。げぼくは男のひとで……」
「そう? それじゃあ、お姫様にしといてあげる。王子にはなれないけど、……ハナを助けてあげる」
それがたとえ、代わりに自分が檻の中に入れられることになったって構うものか。



