すべてはあの花のために⑦


 やっぱり、そうだった。ルニは男の子で。アキラに見せてもらった中に写っていたのは、小さな頃の、彼の後ろ姿の写真で。


「……ひなたくんが。……るにちゃん?」


 何となく、あの写真を見てから違和感はあった。
 少し大きくなった、『彼にそっくりな男の子みたいな女の子』なら、たくさん写っていたから。でも、葵が『本当の彼』を見つけられたのはあの、後ろ姿の写真のみで。

 それがどうしてなのかと尋ねる前に、シュッと何かを吹きかけられる。
 気づいた時にはもう、ヒナタの腕の中で。体に、力が入らなかった。


「……。なに。したの……?」

「大丈夫。ハナは何も心配しなくていいよ」


 そう言ってヒナタは葵を抱え上げ、英語教室を出て行く。


「……。ひなた。くん……」

「もう一人のハナが作った薬。ちょっとだけ使った」

「……! なんで。しってるの……」

「ん? オレがハナのことで、知らないことなんかないよ」


 彼の体温が、温かかった。
 やさしく運んでくれる振動が、心地よかった。
 やさしく見下ろしてくれる彼の顔に、とくんと胸が鳴った。

 彼が運んでくれたのは保健室。彼はちゃちゃっと鍵を開けて中に入っていた。……どこから手に入れたんだろうって。ちょっと疑問だったけど。

 彼は、そっと葵をベッドに横たわらせようとする。


「……。ねないよ。わたし……」


 なんとか体を起き上がらせ、ベッドの端に座っている彼にもたれ掛かる。


「……オレは、ハナには寝て欲しいんだけど」


 やさしく頭を撫でてくるせいで、眠くなってくる。


「……おしえて。ひなたくん……」

「……何を?」

「このまま。ひなたくんのこと。……わるくおもうの。いやなの」

「ハナ……」

「おしえて。ひなたくん。……おし。えて」

「……聞いても忘れるよ? それでもいいの?」


 必死に腕を動かして、申し訳なさそうなヒナタの服を、ぎゅっと掴む。


「……思い出した時。中途半端に君のこと。疑うことだけは。……したく。ないの……っ」

「……ありがとう」


 頭に温かい感触が降ってきたけど、自力で頭を動かすことは、もう難しかった。



「……オレが、絶対にハナを助けてあげる」