「九条 日向。16。高2。小さい頃は、あんたに変な名前つけられた」
「え。……い、いいって。言ってくれたのに」
「うそうそ。あんたの花の名前、つけてくれて嬉しかった。でも酷い言われようで、ここ最近悪魔と呼ばれるんだよね」
「それは。自業自得では……」
「ま、それもいいよね。いい響き」
「えー……」
「特技は、軽~い手品なら少々」
「……!」
「趣味は、隠し撮り?」
「え。しゅ、趣味……?」
「小さい頃、トーマに教えてもらった」
「え……」
「冗談じゃん。真に受けないでよ」
「(……冗談に聞こえないよ、あなたが言ったら)」
「小さい頃は、カメラ持って走ってた。……そこで、あんたを見つけた」
ヒナタは、葵の目元にやさしくキスを落とす。
「(わわわ……)」
「何回もカメラに収めたかった。……でも収められなくって、ずっと後悔してた」
「え……?」
「……いっつも、泣いてたからさ」
「……。ひなたくん……」
「笑った顔、見たかったから」
ヒナタは、葵の顔中にゆっくりキスの雨を降らせてくる。
胸が苦しくて。上手く息ができない。
「勇気出して。……声掛けて、よかった」
「……ひ。ひなたっ。くん……」
「あんたを救えて。……よかった」
「んっ、……ひなた。く……」
「ファーストキスも、奪われるし?」
「……! そ。それは。事故……」
「事故でも、……オレは嬉しかったよ」
「……。っ。はあ……。ひな……」
「……しんどい? まだ口にはしてないのに」
「……?! ま。まだ……?」
「してほしい?」
「……!! ……。っ……」
恥ずかしすぎて、死にそうになっている葵を見て、ヒナタは満足そうに、嬉しそうに頬を緩める。
「……あの時、嬉しかった」
「……?」
「キス。事故だとしてもオレは、あの頃からずっとハナが。……あおいだけが、ずっと好きだった」
「――……!!」
わざとそこを外すように、キスを落とす。
口の端ギリギリに、葵の反応を楽しむかのように、ちゅっと音を立てて。
「……あおいは? 自分の気持ち、教えてよ」
「……。っ……」
だから耳元で、そんなふうに甘い声で言わないでってば。
「……っ。はあ……。……わ。わたし。は……っ」
葵が言おうとしても、ヒナタはキスをやめてはくれなかったけれど。
「……る。るにちゃんが。……たぶん。すき。……だった」
「え」
「いつも。笑ってくれて。何も聞かずに。耳……塞いでないのに聞いてない振りして。……ぎゅって。抱き締めてくれて」
ヒナタの、葵の腰に回している腕に、力が少しだけ入る。
「ときどき。……その。……か。かっこいいなって。おもったり……」
「…………」
「わたしの姿。見えなくなるまで見送ってるの知って。……ちょ。ちょっと。どきどき。……した」
「…………れず?」
「いや。ちがくて」
「いやレズでしょ。オレそれに応えてやれないよ?」
「ちっ、ちがうよ! たぶん、男の子なんじゃないのかなって。……思ってた」
「え」
「で。でも。女の子の恰好してるし。あたしって言ってるし。違ったら不味いし。……聞かない方がいいかなって。思って」
「……好きって、ちゃんとわかってたってこと?」
「……ううん。言ったでしょ? この気持ちが、なんなのかわからないって。今はちゃんとわかってるから、あの時もそうだったんじゃないのかなって思ったの」
きゅっと、頬に当てられる彼の手を握り、俯く。
何度も、何度も。ゆっくり、大きく深呼吸した。
……緊張? そんなの。もうし過ぎて可笑しくなってる。
でも。聞いて欲しいんだ。他の誰でもない。彼にだけは。……絶対に。
それがたとえ小さくても。しっかりと。彼にきちんと届く声で、言葉を紡ごう。
届けたい。どこにも描かせなかった。この心を埋め尽くす、……わたしの想い。



