「わたしの。ことを。……その。……咲かせてくれる。お日様が。……好き」
少しずつ。本当に少しずつだけれど、距離が縮まっている気がする。
「……賭け。わたしの。負けだよ……?」
「……ん」
また少し、縮まった。
「……あの、ね。わたし。葵って、言うの」
「うん」
「名字はね? ……朝日向って。言うんだよ」
「うん」
「向日葵ってね? ……『日向葵』とも言うの」
「へえ。そうなんだ」
「お母さんとお父さん、言ってた。朝に咲く、ひまわりなんだよって。だから、わたしのお花はひまわりなんだよって。……そう。教えてくれたの。……もう。だいぶ前の話だけど」
「そっか」
ほんの少し落ち込んでいるとそっと前髪を掻き上げられて、額にやさしく唇が触れた。
「わわわ……」
「……もう、いっか」
「え……?」
「ん? もう、我慢の限界だから」
今度はこめかみに。ゆっくりと、押し付けるように。
「……いやじゃ、ない?」
「……。いや、じゃ。ない……っ」
「……そっか」
今度はほっぺたに。軽く音を立てて。
「あわわ……」
「……多分、ビックリする」
今度は耳に落としたあと、そこで囁かれる。声を聞くだけで、力が抜けた。
「な。なにが……?」
「ん? んー。……いろいろ?」
今度は首。何度も音を立てるキスに、心臓が壊れてしまいそうになる。
「……あんたの太陽に、なれたかな」
「……? ……うんっ」
「そっか。……あんたがここにいるかと思って、あの時何度も捜した」
「…………。うん」
「ハルナに言ってたんだ、あんたのこと。オレが、ちゃんとそばにいてあげないといけないって。……最後まで、あいつそう言ってた」
「……っ、はるな。さん……」
「……何度も捜した」
「……。うんっ……」
「もう、消えたのかと思った。……会いたかった」
ぎゅっと。力を込めて抱き締めてくれる。
「あんたが、オレのこと太陽みたいって言ったでしょ?」
「……? うん。るにちゃん」
「……オレンジにしたら、わかりやすいかと思って」
「え……?」
顔を見ようと思ったけど、ぎゅっと力を入れられて見えない。……絶対赤い。そうに違いない。
「太陽って、オレンジな感じじゃない? 派手だし、あんたはわかるかと思って」
「……流石に。無理がある」
「オレも頭おかしくなってたんだよ。あんたに会えなくて」
そういうこと、さらっと言わないで。
「あんた、言ったよね。『オレの名前にお日様がある』『羨ましい』って」
「……うん。言った」
頭に温かい感触が触れたあと、ふっと力を緩めてくれる。
「……オレも。あんたの名前に、オレがいるから嬉しい」
そんなやさしい顔を見たことがなくて、まともに顔が見られない。
真っ赤にした顔を、ほんの少し彼の視線から逃れるようにずらすと、それがおかしかったのか。また小さく、……やさしく笑われた。
「賭けはオレの勝ち。……って言っても、本当はここでレンにさせるつもりだったから、オレはするつもりなんてなかったんだけど」
「むうっ」
「はは。ごめんごめん。怒んないで? ……それじゃ、改めて自己紹介するね」
全然謝るつもりはなさそうな声だけど、そう言いながら彼はまた、葵の頬に手を添えてきた。
そんな彼の手に葵もそっと、自分の手も添え、ゆっくりと彼を見上げる。



