でもそんな彼に、彼の言葉に、葵は少し拗ねながら尋ねた。
「……だから、銀色?」
「……そう。レンの髪」
「……これは? アガ〇博士に作ってもらったの?」
「そうそう。いいでしょ。コ〇ンみたいに口元に持ってこなくても首に着けるだけでいい」
「だから仮面、……外してくれなかったの?」
「はあ……」と、小さくため息をついたあと、ゆっくりと話し出す。
「……本当は、最後までレンに、ここにも来てもらうつもりだった。でも、断られた。怒られた。オレが行けって、……言われた」
「…………」
「……はは。最後の最後で。あと、……もうちょっとだったのに」
自嘲気味に笑う彼は、一体今まで何を隠してきたというのだろう。
でも、人のことは言えなかった。自分にも、隠してたことがあったから。
誰にも言っていなかった。
絶対に、本当に誰にもバレないようにしていた。必死になって隠していた。
この、心の中に溢れるもの。
「……後夜祭。レンの姿借りてたけど、わかってた? もしかして」
「……レンくんに初めて会った時、怪盗さんに似てるなとは思ったけど、一緒じゃないなって思ってた。ずっと」
「そう。……それじゃあさっきは? 入れ替わってたの。オレじゃないのわかってた?」
「式場でも。違う人だろうなって。わかってた」
「……どこで?」
「みんな、最後まで仮面を外さなかったの。おかしいなって思って。……あと。声、微妙に違ったから」
「そうなんだ。オレは結構似てると思ったけど。取り敢えず【特技:声真似】はプロフィールに書くなって言っとくよ」
どうしてか、彼が本当にいつも通り過ぎて、不安になる。
「……わたしが。れんくんを。すきになるとおもったの?」
「……まあ、そうさせようと仕向けてはいたよね」
「れんくんを、……すきになってほしかったの?」
「…………」
「すきになればよかったのにって。……そう。おもってる?」
「……思ってるわけ、ないじゃん」
顔を隠していた手を除けて、ちゃんと葵を見つめ返してくれた。
「……あの時、キスしたのは……?」
「ん? どの時?」
「え。……こ、後夜祭……」
「……好きだったから」
「いっぱい首つけた。……なかなか消えなかった」
「ごめんごめん。それだけ独占欲強いんだって」
「……。そ、か」
ぎゅっと彼の服を掴む。そうすると彼は、少しだけ目を見開いたけれど、そのあと小さく笑って『どうしたの?』と、やさしい笑顔で聞いてきた。
そんな彼に、ゆっくりと。少し俯きながら、葵は本音をこぼす。
「……わたしは、お姫様なんかにはなれないよ」
「え。……そんなことないよ」
「ううん。きいて? だから、わたしは王子様には恋はしないの」
「…………」
「わたしがすきなのは、ずっとわたしのこと。見守ってくれてたお日様」
「……え?」
「わたしの知らないところで、わたしのこと。……ちゃんと見てくれてたお日様」
「…………」
「……わたしのこと。ちゃんとわかってくれるお日様」
そっと、頬に手が添えられた。
「……怪盗さんと。ルニちゃんが一緒だって気がついたのは。……ついさっきなの」
「……え」
「怪盗さんが、ハナって言ったから。……君と。ぜんぶつながったの」
「……そう」
「わたしは、お姫様なんかじゃなくて、ただのお花だから……っ」
すっと、彼に唇を指でなぞられる。それにびくっと震えると、小さく笑われた。



