「……あの時ね? 誰も『ハルナさんの写真を処分した』とは言わなかったんだ」
「言うなって口止めしてたからね。……言ったらマジぶっ殺してた」
「いやいや、あなた実の兄貴になんてことを……」
「だって一個チクられたんだもん。あのあと痛い目に遭わせてあげたよ」
褒めて褒めてって。言っても褒められたもんじゃないし、恥ずかしかったんだって正直に言えばよかったのに。
「ツバサくんは、ずっと『あいつの』としか言ってなかった。だからツバサくんにも『話してないこと、あるでしょう?』って言ってたの。何となく、気がついてるのわかってたみたいだから、あの時わたしに、君が如何に不器用さんなのかを教えてくれたんだよ」
「マジいらない情報だし。何それ。人の知らないところで言われるほど、ムカつくことってないよね」
げげ。他にもめっちゃ聞いてるんだけど……い、言えるかな。
「君が『あいつの写真』って言った時、どこか苦しそうな感じだったから、やっぱりそうなんだって思った。……ワカバさんが写真を見て暴れてたのは、君の方だったんだよね」
申し訳なく思いながら尋ねると、少し背中が重くなる。
「オレのせいで死んだって言うくらいだからね。別に気にしないでいいよ。オレが、自分の写真回収しに行ったんだし」
「でも……」
「それより、……黙っててごめん」
「え……」
彼が、こんなに素直に謝ってくれることなんか。
「あんたは気にすると思って。だから隠してた。……知ってるんでしょ? オレの代わりに、ハルナが死んだって」
「……ごめんなさいっ」
「あんた言ってたじゃん。オレに向かってきてたのを、ハルナが庇ったんだろって。その時に、……ああ、もしかして気づいてんのかなって思った。確信なかったけど」
「…………」
「あんたは悪くないよ。アイも。ちゃんとわかってるから」
「……っ、うんっ」
葵がなんとかそう返事をすると、すっと背中の重みが消えた。
「え……っ」
「よいしょっと。気づいてたんならもういいや」
いつの間にかこちらへと向き直ってきた彼は、葵のお腹の方に腕を回し、足の間に葵を収める。
「あーあ。もうこんな恰好しないって言ったのに……」
相当嫌だったらしく、片手で蝶ネクタイを外した。仮面は、……流石にすぐ外したみたい。
「い、……いっぱい。聞きたいこと。あるんだけど」
「うん。……なに? 信じて待っててくれたからね。ご褒美。なんでも聞いていいよ」
そう言われても、普段とは違うやさしい声とか。頭を撫でてきてくれる。あたたかい手と笑顔とか。お腹に回ってきてる、甘い拘束だとか。自分じゃない人の、あったかい体温とか。……近い距離に、意識したくなくても、顔が勝手に赤くなる。
「ん? ……どうしたの? なんで固まってるの?」
わかってるくせに。
「どうして真っ赤なの? ……教えてよ、あおい」
わかってるくせに。わかってるくせにいっ。
「……。いじ。わる……」
「言ったじゃん。意地悪したくなるんだって」
そうやって嬉しそうに笑う顔だって、卑怯だ。



