「あの時の質問にはザッと答えたつもりだけど、他に質問ある人いる?」
みんなはお互いを見渡した。
「……しんとサン。あおいチャンが『願い』を叶えることを決めたのはいつか、ご存じですか?」
初めに聞いたのはアカネ。遠慮がちに聞く彼に、シントはふわりと笑う。
「やっぱり俺は、君にちょっと嫌われちゃったのかな?」
「いえ。ただ、もう話はしたくはないなと思ってるだけです」
「嫌われてるじゃん……!」
「しんとサンがそういう空気を出さなければ全然問題ありませんっ」
そう言うアカネに、アキラもツバサも大きく頷いていた。
「あ。だから桜李くんも来なかったんでしょ~。あとは千風くんと圭撫くんもー」
「え? 行ってなかったんですか?」
アカネは口を出して、拗ねているような感じのシントを見た後、首を振っているアキラを見て、最後に三人を見たけれど、誰も目を合わしてくれなかった。
「えっと、多分おれが悪いので。みんなを責めないでください」
「うん大丈夫だよ。俺なんかにビビってるようなら、葵には踏み込めないだろうからね」
ニコニコ笑っているけれど、全員に苛立ちがこもったのが空気でわかる。
「さてと。いつわかったか。……生徒会をすると決めた日、だろうね」
「(ていうことは、始業式の次の日。明日の、一年前か……)」
この一年。葵は『願い』を叶え続けてくれた。アカネは、絶対にその恩を返したいと思った。
「(でも、これで理事長があの日あおいチャンに『願い』を言ったのがわかった)」
アカネは大きく頷いて、「ありがとうございます」と、次の人にバトンタッチした。
「それじゃあ、信人さん。あれについて教えてくださいよ」
トーマが、『あれ』についてシントに問う。
眉を寄せるシントに対し、トーマはどこか愉しげだ。
「こういうのって楽しいですよね」
「……何のこと」
「信人さんのことだから、何か調べたんでしょう。さっき『試供品』と言ったものについて。だって、そもそもそんな中途半端なものとわかっていたなら、馬鹿な皇でも使わないですよね? だから慌てて外したんだろうし」
「……そうだね。その通りだ」
「それじゃあ信人さん。あれが試供品だとわかったのは、いつ? どこで? 何をしている時に?」
ここで、先程までは余裕そうだったシントが、初めて言葉に詰まる。
「どうしたんですか? これは、信人さんの話でしょう?」
トーマはそう尋ねるが、言葉に詰まっていてもシントの真面目な顔は崩れない。
「……ごめん。これは『言えないこと』だ」
どこかで聞いたことがある言い回しに、みんなはそれぞれ反応する。
「それはどうしてでしょうか。教えてくれません?」
「……危険なことだからだ」
シントの言葉に、ひやっとした空気を感じたみんなに鳥肌が立つ。
「……え。ちょ、待って……」
カナデは嫌な予感がして、シントの方を不安そうに見た。
「アオイ、ちゃんが。言ってたことと。……似てるんですけど」
みんなも同じことを思っているのか、不安げな顔をしている。
「……そう。葵が言ったことは正しい。それぐらい危険だ。君たちを守るには」
「『言えない』んですよね?」
それでもただ一人、トーマは話を続けようとする。
「杜真くん……」
「信人さん? 俺の予想を言うので、話さなくていいので聞いててください」
それは、トーマしか知らないこと。
トーマは一人、あの時自分を動かしてくれた葵の言葉を借りてシントに尋ねた。
「みんなが何て葵ちゃんから聞いてるとかは知らないけど、俺は葵ちゃんに『危険だから言えない』とは言われてないからね?」
何故か一人、雰囲気の違うトーマがいるおかげで、その場のひんやりしていたはずの空気さえ、断ち切られてしまう。
「さて信人さん。準備はいいです?」
「……はあ。どうぞご勝手に」
半ば、諦めたようなシントに、トーマは予想を問い掛けた。
「違ったら申し訳ないですけど。……葵ちゃんの家、道明寺が『あれ』を作ったんじゃないでしょうか」



