すべてはあの花のために⑦


「あの時の質問にはザッと答えたつもりだけど、他に質問ある人いる?」


 みんなはお互いを見渡した。


「……しんとサン。あおいチャンが『願い』を叶えることを決めたのはいつか、ご存じですか?」


 初めに聞いたのはアカネ。遠慮がちに聞く彼に、シントはふわりと笑う。


「やっぱり俺は、君にちょっと嫌われちゃったのかな?」

「いえ。ただ、もう話はしたくはないなと思ってるだけです」

「嫌われてるじゃん……!」

「しんとサンがそういう空気を出さなければ全然問題ありませんっ」


 そう言うアカネに、アキラもツバサも大きく頷いていた。


「あ。だから桜李くんも来なかったんでしょ~。あとは千風くんと圭撫くんもー」

「え? 行ってなかったんですか?」


 アカネは口を出して、拗ねているような感じのシントを見た後、首を振っているアキラを見て、最後に三人を見たけれど、誰も目を合わしてくれなかった。


「えっと、多分おれが悪いので。みんなを責めないでください」

「うん大丈夫だよ。俺なんかにビビってるようなら、葵には踏み込めないだろうからね」


 ニコニコ笑っているけれど、全員に苛立ちがこもったのが空気でわかる。


「さてと。いつわかったか。……生徒会をすると決めた日、だろうね」

「(ていうことは、始業式の次の日。明日の、一年前か……)」


 この一年。葵は『願い』を叶え続けてくれた。アカネは、絶対にその恩を返したいと思った。


「(でも、これで理事長があの日あおいチャンに『願い』を言ったのがわかった)」


 アカネは大きく頷いて、「ありがとうございます」と、次の人にバトンタッチした。


「それじゃあ、信人さん。あれについて教えてくださいよ」


 トーマが、『あれ』についてシントに問う。
 眉を寄せるシントに対し、トーマはどこか愉しげだ。


「こういうのって楽しいですよね」

「……何のこと」

「信人さんのことだから、何か調べたんでしょう。さっき『試供品』と言ったものについて。だって、そもそもそんな中途半端なものとわかっていたなら、馬鹿な皇でも使わないですよね? だから慌てて外したんだろうし」

「……そうだね。その通りだ」

「それじゃあ信人さん。あれが試供品だとわかったのは、いつ? どこで? 何をしている時に?」


 ここで、先程までは余裕そうだったシントが、初めて言葉に詰まる。


「どうしたんですか? これは、信人さんの話でしょう?」


 トーマはそう尋ねるが、言葉に詰まっていてもシントの真面目な顔は崩れない。


「……ごめん。これは『言えないこと』だ」


 どこかで聞いたことがある言い回しに、みんなはそれぞれ反応する。


「それはどうしてでしょうか。教えてくれません?」

「……危険なことだからだ」


 シントの言葉に、ひやっとした空気を感じたみんなに鳥肌が立つ。


「……え。ちょ、待って……」


 カナデは嫌な予感がして、シントの方を不安そうに見た。


「アオイ、ちゃんが。言ってたことと。……似てるんですけど」


 みんなも同じことを思っているのか、不安げな顔をしている。


「……そう。葵が言ったことは正しい。それぐらい危険だ。君たちを守るには」

「『言えない』んですよね?」


 それでもただ一人、トーマは話を続けようとする。


「杜真くん……」

「信人さん? 俺の予想を言うので、話さなくていいので聞いててください」


 それは、トーマしか知らないこと。
 トーマは一人、あの時自分を動かしてくれた葵の言葉を借りてシントに尋ねた。


「みんなが何て葵ちゃんから聞いてるとかは知らないけど、俺は葵ちゃんに『危険だから言えない』とは言われてないからね?」


 何故か一人、雰囲気の違うトーマがいるおかげで、その場のひんやりしていたはずの空気さえ、断ち切られてしまう。


「さて信人さん。準備はいいです?」

「……はあ。どうぞご勝手に」


 半ば、諦めたようなシントに、トーマは予想を問い掛けた。


「違ったら申し訳ないですけど。……葵ちゃんの家、道明寺が『あれ』を作ったんじゃないでしょうか」