すべてはあの花のために⑦


「あの、ヒイノさん。……これ」


 新婦控え室へと戻ってきた葵は、ヒイノの首にガラスのネックレスを返した。


「……これね? 本当はあおいちゃんにプレゼントだったの」

「え?」

「不安定だったあなたに、ものを大切にすることをわかってもらいたかったから。……壊れやすいものを渡して、大事にしてもらっていたの」

「……そう、だったんですね」

「うん。……でも、いつか返ってくるって信じてたわ?」


 にこにこと、返した意味をわかったヒイノが嬉しそうに笑う。


「~~っ。……ちょ。ちょっと恥ずかしいな……」

「あらかわいい!」


 楽しそうに、照れた葵のほっぺたをつんつんしてくる。


「……ヒイノさん。絵本ありがとうございました」


 これのおかげだと言っても過言ではないだろう。よくわかったなあとも思うけど。


「あおいちゃんも、いろいろ付け足していたのね」

「え? も、って……え。もしかして」

「わたしも、同じように文字も隠していたのよ」


 そこまでは知らなかった。似たもの親子と言うべきか。


「わたしが隠してたのは『わたし自身』のこと。『ここに住んでるから来てね~』って、メッセージを残していたの」

「か、軽いですね……」

「でも、まさか子どもが来ると思わないじゃない? しかも男の子! ふふっ。びっくりしちゃった」

「あはは……」


 葵がそう言うと、ヒイノは小さく笑った。


「……聞いてきなさい。ちゃんと全部。本当の話を」

「……?」

「あなたなら、気付いてあげてくれてるって。……そう信じてるわ」

「ひいのさん……?」

「ほら。彼のとこ、行ってあげるんでしょう?」


 彼女の口振りが、少しだけ気になるけれど、葵は大きく頷いた。


「……はい。行ってきます! ヒイノさんも、今日よかったら一緒にご飯食べましょう? たくさん話したいことがあるんです!」


 嬉しそうに「わたしもよ」と、彼女は手を振って見送ってくれた。


 ここに来た時の白いワンピースに着替えた葵は、レンに大事なものを全部入れておいてもらった鞄だけを持って、首元のハートを揺らしながら、彼が待っているであろうあの丘に急いで駆けていった。