「……っ、大丈夫ですかアザミさん! 怪我は?!」
完全に腰が抜けているアザミのところへ、葵が駆け寄る。
「……あ。ずさ……」
「アザミさん……」
もう、その視界は曇っていた。頭の中にもきっと、靄がかかっているのだろう。
「……アザミさん? 大丈夫?」
「……あ。ああ……」
「わたしは、あなたの奥さんではありません」
「……あ。あ……」
「わたしの名前は、葵っていうんです。太陽に向かって咲く、お花の名前です。あなたの息子さんと、……漢字は違いますが。同じ『あおい』ですよ?」
「……あ。お……」
「アザミさんのこと、勘違いしてました。わたしは信じますよ。あなたの大切な、本当の息子さんの藍くんのことを」
「……あ。おい……」
「気づいていたら、……また何か違っていたかも知れません」
「あおい。……あおい」
「あなたも犠牲者だ。被害者だ。……助けてあげられなくて、ごめんなさい」
葵はそっと、アザミの頭を抱き締める。
「ちゃんと治しましょう? あなたのことを、信じて待ってくれているあおいくんのために」
「……。わる。かった……」
腕を緩め彼の顔をよく見ていると、目尻から涙が零れていた。
「……あおい。ちゃん。……ごめん。な……」
「……十分です。早く元気になってくれれば、それで」
そうして葵はアザミを公安に預け、未だ騒がしい会場へと腕を捲りながら帰って行った。
「さあて! ひと暴れしちゃいましょうか!」
そして再び、大きな扉を開け放つ。
みんなは危険だったので、壁を背に隅の方で保護されているようだった。本当に腕っ節のいいミズカとアイ、カエデ、シント、シオン、マサキはかり出されているようだけれど……。
「俺もいかせろー! おい! 花咲ぃーッ!!」
「……父さん。お願いだから落ち着いてくれって……」
「あなたが行って怪我でもしたら、あおいちゃんとの約束はどうするのっ」
「そうそう」
そんな調子で、トウセイが家族に押さえつけられていた。
流石にアカネもオウリも、チカゼもアキラも危ないということだったので、理事長に止められていた。
「あれ~? ミズカさん、腕落ちました?」
「おいあおい! 帰ってきたんならさっさと手伝え!」
ミズカが向かってくる敵をばったばったと薙ぎ倒し、壁にぶん投げている。投げられた人たちを、公安たちが縛り上げていた。適材適所というべきか。きっとミズカに任せた方がこの場をあっという間に鎮圧できると思ったのだろう。彼らの判断はきっと正解だ。
「あっちゃん! 危ないよ!」
「いや、お前ら。近寄らない方がいいぞ」
そして、また一人ぶん投げながらそんなことを言うミズカも。
「危ないのはあおいじゃなくて――」



