すべてはあの花のために⑦


「……あたまがいたい……」


 わけがわからなかった。説明を求む。
 頭の中は、なんとか今くれた情報を処理しようとしていたけれど……なんだか、そんなのももうどうでもよくなって。ただただ次々に取り押さえられていく本当の参加者を、公安を、ぼうっと見ていることにした。

 呆然と観察してわかったのは、どうやら事前に荷物チェックをしていたようで、危険物を持っている人はいないということ。公安も武器は警棒や手錠のみで、銃は持っていないようだ。もちろん、コズエは除いてだけれど、悔しそうに参加者が取り押さえられている。

 でもそれは荷物の中だけで、身体検査は流石にそこまで細かく徹底できていないみたいだった。


「……許さない……」


 何故なら。義母のエリカが、こちらに向かってナイフを突き出してきたから。


「――あおいさん!!」


 参加者を取り押さえる手伝いをしていたアイの叫び声が、遠くから聞こえた。どうやら彼女は、太もものところに仕込んでいたようだ。
 確かに、そこまで身体検査はできないわな~っと。なんでかあまり危機感を覚えず、頭の中でそう思った。


「あんたのせいで!! 何もかも……!!」


 いやいや、完全に自分たちのせいでしょうよと、冷静に突っ込む。


「……あんたが、いなければ……」


 刃先は確実に葵の体へと向いてきていた。
 ……けれどやっぱり怖くなんかなくて、自分たちのせいだろとまた突っ込んだ。


「あんたのせいでぶち壊しよぉぉおおー!!!!」


 だから自分たちのせいだってと、こちらに突っ込んできているエリカにまたもや冷静に突っ込む。
 ……あー。なんか、最近こんなのなかったよなーと。久し振りに体動かすなーと。完全に回転が止まった頭でそんなことを考えていた。

 けれど、やっぱり体は何も考えていなくても勝手に動くみたいだ。自然と腰が落ち、確実に狙ってくるエリカへ、攻撃を仕掛ける体勢を取っていたのだから。

 ――けれど、それも不発に終わった。



「……たく。せっかく綺麗なドレスを着ていらっしゃるんですから、技なんか仕掛けようとしないでくださいよ」


 そんな声とともに、視界がさっと、黒い影でいっぱいになったから。



「……神父、さま……?」


 エリカの腕を捻り上げ、ナイフをその手から落としていたのは。葵を助けてくれたのは、先程まで目の前にいた神父だった。


「……それで? これでもあなたは、まだ自分が許せませんか」


 そう言ってエリカの腕を背中に回し、完全に身動きを封じる。


「……しんぷ。さま……?」


 でも、今はじめて、ちゃんと彼のことを見た。そして、……ちゃんと聞いた。

 葵を助けた衝撃で帽子が取れ、そこから現れた銀色がふわりと揺れる。


「みんな、あなたを助けるためにここへ来たんです。あなたが大好きだから。ただそれだけです。あなたに謝って欲しい人間など、この中には一人もいない!」


 乱れた服の中から見えた、赤い蝶ネクタイ。


「あなたが守ってきた人たちだって、もう安全です。他に何があなたを頑固にさせてますか? それを、私がなんとしてでも変えて差し上げます。あなたの考え全てを、変えてご覧に入れますよ!」


 聞いたことのある声は。白い仮面から見える瞳は。



「……助けに来たよ。ハナ」


 ――あの時と同じ、自信に満ち溢れていた。