「……あたまがいたい……」
わけがわからなかった。説明を求む。
頭の中は、なんとか今くれた情報を処理しようとしていたけれど……なんだか、そんなのももうどうでもよくなって。ただただ次々に取り押さえられていく本当の参加者を、公安を、ぼうっと見ていることにした。
呆然と観察してわかったのは、どうやら事前に荷物チェックをしていたようで、危険物を持っている人はいないということ。公安も武器は警棒や手錠のみで、銃は持っていないようだ。もちろん、コズエは除いてだけれど、悔しそうに参加者が取り押さえられている。
でもそれは荷物の中だけで、身体検査は流石にそこまで細かく徹底できていないみたいだった。
「……許さない……」
何故なら。義母のエリカが、こちらに向かってナイフを突き出してきたから。
「――あおいさん!!」
参加者を取り押さえる手伝いをしていたアイの叫び声が、遠くから聞こえた。どうやら彼女は、太もものところに仕込んでいたようだ。
確かに、そこまで身体検査はできないわな~っと。なんでかあまり危機感を覚えず、頭の中でそう思った。
「あんたのせいで!! 何もかも……!!」
いやいや、完全に自分たちのせいでしょうよと、冷静に突っ込む。
「……あんたが、いなければ……」
刃先は確実に葵の体へと向いてきていた。
……けれどやっぱり怖くなんかなくて、自分たちのせいだろとまた突っ込んだ。
「あんたのせいでぶち壊しよぉぉおおー!!!!」
だから自分たちのせいだってと、こちらに突っ込んできているエリカにまたもや冷静に突っ込む。
……あー。なんか、最近こんなのなかったよなーと。久し振りに体動かすなーと。完全に回転が止まった頭でそんなことを考えていた。
けれど、やっぱり体は何も考えていなくても勝手に動くみたいだ。自然と腰が落ち、確実に狙ってくるエリカへ、攻撃を仕掛ける体勢を取っていたのだから。
――けれど、それも不発に終わった。
「……たく。せっかく綺麗なドレスを着ていらっしゃるんですから、技なんか仕掛けようとしないでくださいよ」
そんな声とともに、視界がさっと、黒い影でいっぱいになったから。
「……神父、さま……?」
エリカの腕を捻り上げ、ナイフをその手から落としていたのは。葵を助けてくれたのは、先程まで目の前にいた神父だった。
「……それで? これでもあなたは、まだ自分が許せませんか」
そう言ってエリカの腕を背中に回し、完全に身動きを封じる。
「……しんぷ。さま……?」
でも、今はじめて、ちゃんと彼のことを見た。そして、……ちゃんと聞いた。
葵を助けた衝撃で帽子が取れ、そこから現れた銀色がふわりと揺れる。
「みんな、あなたを助けるためにここへ来たんです。あなたが大好きだから。ただそれだけです。あなたに謝って欲しい人間など、この中には一人もいない!」
乱れた服の中から見えた、赤い蝶ネクタイ。
「あなたが守ってきた人たちだって、もう安全です。他に何があなたを頑固にさせてますか? それを、私がなんとしてでも変えて差し上げます。あなたの考え全てを、変えてご覧に入れますよ!」
聞いたことのある声は。白い仮面から見える瞳は。
「……助けに来たよ。ハナ」
――あの時と同じ、自信に満ち溢れていた。



