「ま、内緒だけど、なったよね~」
「雑っ!?」
「言わないでね? ほんと。マジで面倒くさいことになるから」
「は、はあ……」
「ま、俺がなったから、当然アキと葵の婚約も破談に終わったわけだ」
みんなが驚いている様子を見て、シントは首を傾げる。
「あれ? アキ。まだみんなに言ってなかったの?」
「言おうと思ったら、杜真に邪魔されるわ、シン兄が入ってくるわで話できなかった」
「ありゃま。そりゃ悪かったね」
「それならそうって言ってよね~。今日も葵ちゃんに求婚の電話入れるところだったじゃーん」
「杜真くん。それだけは絶対にやめて(葵が消えるから!)」
「あ。信人さん嫉妬してる」
嫉妬がないわけではありませんが、本当にそれだけはやめてとシントは懇願した。
「まだ破談になったわけじゃないけど、皇次期当主のアキとの縁談だったものが俺に替わったわけ。時期を見て、俺の存在も次期当主になることも公表はするつもり。だからいずれは破談になるということ。OK?」
シントの言葉に、みんなはただ、頭の中で今までのことを整理しながら頷くことしかできなかった。
「あとは……取り敢えず杜真くんの分が終わったら、さっきの質問には全部答えることになるかな?」
「そうですね。あと追加で。信人さんがいつ解雇されたのかもお願いします」
「はいは~い。俺が実際に解雇されたのは3月1日。書類を書かされた覚えがある。その辺の記憶は、忘れている時に書かされたからちょっと曖昧だけど」
「そうですか。……じゃあ、あそこを出たのは?」
「捨てられたのは3月の終わり。終業式ぐらいじゃないかな?」
「どうやって捨てられたんですか」
「車に乗せられて、運転手と俺と葵の三人で、どこかよくわからないところに降ろされて、そのまま葵は帰って行った」
みんなは言葉が出なかった。
「じゃあ、どうやってここへ帰ってきたんですか?」
「父さんとアキと、楓に見つけてもらったんだ」
「……? 信人さんは、どちらにいたんですか?」
「廃工場だよ」
「廃工場……?」
「そう。俺が葵に拾ってもらった場所。……そこだけ何となく覚えてたから、そこにいたら、父さんたちが来てくれたんだ」
「どうしてアキたちはシントさんがそこにいるってわかったんですか?」
「わかってたのは父さんたちじゃなくて葵だ。俺の記憶を消すのに、『出会いの場所』だけは消さなかったらしい。どうしてそんなことできるのかとか聞かないでね。ぶっ飛んだ設定だからだよとしか言えないから」
そう言うシントに、みんなはお口チャックした。
「葵ちゃんがアキたちと連絡を取って、信人さんを見つけてもらうよう手配した、といったところでしょうか」
「そうだね。まあ詳しいところは俺からは言えない。葵に聞くといいよ」
トーマは聢と頷いていた。



