「あたしが今! 好きな人とこうしていられるのは! あっちゃんのおかげだあ!! ばっきゃろー!!」
「……!! き。……きさ。ちゃん……?」
「……ま。そういうこった」
「……。きく。せんせい……」
「たとえ葵ちゃんが、菊ちゃんのお父さんに酷いことをしたとしても。それ以上のもの、返してもらってるの。そもそも葵ちゃんがしたんじゃないんだし、葵ちゃんが気にすることないわ? だーかーらー! 何かあったら言ってねって言ってたのにい!」
「……あかりさん。まで……」
「葵ちゃんが気づかせてくれたんだ。感謝することはあれ、謝ってもらうことなんて一つもないよ」
「……。さつきさん。……どう。して……」
騙されてたとしても、やったのは自分なのに。
彼らは、やさしい仮面越しの笑顔で。葵にそう、語りかけてくれる。
「君が……いや、君の家が私のことを邪魔者扱いしていたとしたら万々歳だ。ざまあみろ。だから、君が責任を感じることなどない」
「……。とうせい。さん……」
「家族がバラバラになってたのを。……俺の背中を押してくれたのはお前だろ!? そんなお前を。俺らが責めるわけないだろ! 俺らが嫌うわけないだろ……っ!!」
「……。でもっ。つばさくん……」
「薬のせいでひなちゃんを苦しめたのは、確かにわたしも嫌だった。……でも、全部弱かったわたしのせいよ? 手をつけたのはわたしだもの。そこから助けてくれたのはあおいちゃんよ。ありがとう。きちんとお話しできて、よかったわ」
「……え。……わかば。さん……?」
「……ん。まあ気にすることないって。忘れられたことは確かにつらかったけど、でもあんたに比べたらこんなのなんともない」
「……。……ひなた、くん……?」
みんなが。みなさんを。ここまで連れてきてくれたっていうの……?
「……オレは、許さねえ」
「……。ちか、くん……」
仮面の奥の彼の瞳は、怒りで満ち溢れていた。
「親父たちの会社、潰したのかよ」
「……。はい」
「オレを出しに使って。お袋たち脅したのかよ」
「……。っ。はい」
「オレの親。……殺したのかよ」
「…………。っ、はいっ」
そう言った瞬間、チカゼが誰かの椅子を蹴り上げた。
「ふざけんなっ!!」
「……っ!!」
その怒鳴り声に、恐怖で体が震え上がる。その拍子に着けていた仮面が落ちた。
カランカランと、落とした仮面の音が、チカゼの叫びの余韻が残る静かすぎる会場に響き渡る。本当の参加者たちは、震えている葵を見て、仮面の奥で『いい気味』とクスクス笑っていた。
「……ご。……っ」
謝ったって、許されない。
なんでみんなが、こんなこと知ってるのかとか。……もう、そんなことどうでもいい。
ただ、……っ。嫌われたく。なかった。
「これ。言葉が足りんわアホ」
「いたっ」
「……?」
フジカがチカゼの頭にチョップをかます。
「アオイさん? うちのバカ孫がすまんかった。怒っとるんは違う理由やから」
「……え」
そしてまたフジカがチョップを食らわしながら、「ちゃんと言いんさい」と、チカゼが叱咤されていた。
「……なんで。もっと早くに言ってくれなかったんだ」
「……。え……?」
チカゼがゆっくりと顔を上げながら、不安げに葵を見つめてくる。
「……きらうわけ。ねえじゃん」
「……。ちか。くん……」
チカゼの声も、震えていた。
「言っただろ。好きなんだって。……どんだけ言えばいいんだよっ」
「………………」
「許さねえって言ったのは。お前が自分で『した』って言ったから」
「え……」
「怒ったのは、お前を守れなかった自分にだ。……お前のことを、もっと早くに助けてやれなかったから」
「……。ちかくん……」
「墓参り。……一緒に行くぞ」
「…………」
「……アオイ、返事」
「……。わたし、はっ……」
チカゼとフジカも、ちゃんとご両親の写真を持ってきてくれていた。……でも、たとえみんなに許してもらえたって。
『たとえば、あなたの守りたかった人たちが安全だとわかれば、あなたは安心できますか? 決められた道から逸れることができますか? 冷たくて、暗い……未来から』
「……。え……?」
神父がまたそう言葉にしたら、二人の男女がその仮面に手をかけた。
「え……」
うそ。……うそ。どうして。ここに……。
「……あおいちゃん」
「あおい……」
「……ひいの。さん? みずかさんまで……」
どうして彼らまでここにいるんだ。
危険だ。本当に危ない。
だってほら。本当の参加者たちの瞳が、ぎらりと光って――――。



