すべてはあの花のために⑦


『……この世に、許されない罪などありません』

「……えっ」


 涙で歪み始めている目の前の神父は、そんな風にやさしい言葉を。そうだといいなと思う言葉を投げかけてくれる。


『誰でも罪は犯してしまうもの。自分が知らないところでいつの間にか犯してしまうのも然り。自分で故意に犯すのも然り。……したくないのに、犯さないといけない状況になってしまうことも然り』

「……ゆるして。もらえるわけ。ありません……っ」


 葵は涙を堪えながら必死にそう返す。


『どうして葵さんは、そう思っていらっしゃるのでしょう』

「ゆるされないことをっ。してきたから。です……」

『ではあなたに尋ねましょう。どうすれば、あなたの罪は許されるでしょうか』

「……どう、やったって。ゆるされませんっ」


 だって、あんなことをしてきたのだから。罪を重ねすぎた。こんな自分を、……許してくれる人などいない。


『……そうですか。では私から、たとえばの話をしましょう』

「……?」


 俯いていた顔を上げると、目の前の神父の口元は緩く弧を描く。


『……もし、あなたが傷つけてしまった人たちに罪を償ったとしたら、どうでしょう』

「……っ。そんなもので。ゆるしてもらえるわけがありません」


 だって葵は、願いでその罪を少しでも償ってきたのだから。……いや。償いなどではない、か。
 あれは本当に。ただの、自分への気休めだ。これ以上ないほどの。


『そのあなたの償いで、彼らの心を癒やすことができたとしても?』

「……やったことにはっ。かわり。ありませんっ……」

『あなたのことを、彼らが許すと言っても?』

「……言ってくれる。わけ。ない……」

『あなたのことを、彼らが許すと、書面に記したとしても?』

「……そんなものっ。ただの紙切れですっ……」

『それでは…………』


 そう言った神父は、続きの言葉をなかなか口にはしなかった。

 じっくりと間を使ってくる神父を、葵はもう一度、ゆっくりと見上げた。
 ……気のせいかも知れない。涙でぼやけた視線の先の、仮面の向こうの瞳が、少しだけ微笑んだような気がした。



 そうしてもっと、ゆっくりと時間を使って、神父は言葉を紡いだ。



『……あなたに直接会って許すと、言ってくれたとしても?』



 神父がそう言葉にした途端、ガタガタッと後ろの方で立ち上がる音が聞こえた。


「……。え……?」


 葵が振り返ると、そこには仮面を着けたままの、ここにはいないはずの大好きな人たちが大勢いた。
 どういうことだと会場は慌ただしくなったが、『静かにしなさい。神様の前ですよ』と。神父の一喝に、本当の参加者たちは言葉に詰まる。


「……。どう。して……」


 だって今日は、今頃関西にいるはずなのに……。


「……。っ。なんでっ……」


 彼らだけじゃなくて。全員(、、)。来ているのっ。