『……この世に、許されない罪などありません』
「……えっ」
涙で歪み始めている目の前の神父は、そんな風にやさしい言葉を。そうだといいなと思う言葉を投げかけてくれる。
『誰でも罪は犯してしまうもの。自分が知らないところでいつの間にか犯してしまうのも然り。自分で故意に犯すのも然り。……したくないのに、犯さないといけない状況になってしまうことも然り』
「……ゆるして。もらえるわけ。ありません……っ」
葵は涙を堪えながら必死にそう返す。
『どうして葵さんは、そう思っていらっしゃるのでしょう』
「ゆるされないことをっ。してきたから。です……」
『ではあなたに尋ねましょう。どうすれば、あなたの罪は許されるでしょうか』
「……どう、やったって。ゆるされませんっ」
だって、あんなことをしてきたのだから。罪を重ねすぎた。こんな自分を、……許してくれる人などいない。
『……そうですか。では私から、たとえばの話をしましょう』
「……?」
俯いていた顔を上げると、目の前の神父の口元は緩く弧を描く。
『……もし、あなたが傷つけてしまった人たちに罪を償ったとしたら、どうでしょう』
「……っ。そんなもので。ゆるしてもらえるわけがありません」
だって葵は、願いでその罪を少しでも償ってきたのだから。……いや。償いなどではない、か。
あれは本当に。ただの、自分への気休めだ。これ以上ないほどの。
『そのあなたの償いで、彼らの心を癒やすことができたとしても?』
「……やったことにはっ。かわり。ありませんっ……」
『あなたのことを、彼らが許すと言っても?』
「……言ってくれる。わけ。ない……」
『あなたのことを、彼らが許すと、書面に記したとしても?』
「……そんなものっ。ただの紙切れですっ……」
『それでは…………』
そう言った神父は、続きの言葉をなかなか口にはしなかった。
じっくりと間を使ってくる神父を、葵はもう一度、ゆっくりと見上げた。
……気のせいかも知れない。涙でぼやけた視線の先の、仮面の向こうの瞳が、少しだけ微笑んだような気がした。
そうしてもっと、ゆっくりと時間を使って、神父は言葉を紡いだ。
『……あなたに直接会って許すと、言ってくれたとしても?』
神父がそう言葉にした途端、ガタガタッと後ろの方で立ち上がる音が聞こえた。
「……。え……?」
葵が振り返ると、そこには仮面を着けたままの、ここにはいないはずの大好きな人たちが大勢いた。
どういうことだと会場は慌ただしくなったが、『静かにしなさい。神様の前ですよ』と。神父の一喝に、本当の参加者たちは言葉に詰まる。
「……。どう。して……」
だって今日は、今頃関西にいるはずなのに……。
「……。っ。なんでっ……」
彼らだけじゃなくて。全員。来ているのっ。



