一度神父が息を吸い込む。
『……約束するかどうかを聞く前に、神様の前です。何か心残りがあれば、一緒に聞き入れましょう』
「「……え?」」
二人して、目の前の神父に目が点になる。
会場も、初めはざわついていたものの、進行などはすべて彼らに任せているのか、誰一人文句を言う人はいなかった。
『では先に、……藍さん。あなたから』
神父はアイの前にそっと手の平を差し出し、彼を促す。
「…………俺は」
「(え? そのまま流れで言っちゃう感じ? どう考えたってこんなことないでしょうよ……)」
そうなると、葵も言わないといけないのかと思って少し悩む。
「俺にもっと勇気があれば、たくさんの人を助けられたのにと、思っていました」
「(……あおいくん……)」
『……勇気、ですか。今も、あなたには必要なものですか?』
「いいえ。俺も、たくさんの人に支えられました。たくさんの人の支えがあったからこそ、俺は勇気を出すことができたんです」
『……そうですか。それはよかった。他には何か、誓いの前に言うことは?』
「俺の大切な人たちを助けたい! ただ、それだけです!」
真っ直ぐに前を見据え、会場に響き渡る彼の大きな決意に、近くにいた葵はびくりと体を震わせた。
「(……そう言ってくれるだけで、十分だっ)」
彼の言葉に神父は嬉しそうに頷き、今度は葵の方へと向く。
『それでは葵さん。あなたも、神様の前です。嘘など見破ってしまうでしょう。包み隠さず、あなたの胸の内をお話しください』
「……わたし、は……」
話せと言われても、話せないこともある。
「……たくさんの。許されない罪を背負ってきました」
『……許されない?』
「たくさんの罪を背負いました。たくさんの人に涙を流させてしまいました。たくさんの人に苦しみを、つらさを、悲しみを、寂しさを与えてしまいました」
守れなかった。守りたかった。
助けてあげたかった。助けてあげられなかった。
それなのに、たくさんの人にたくさん愛を教えてもらいました。これ以上ないほど。
こんな、最低なわたしに。こんな罰当たりなわたしに。家族のあたたかさを、友達のあたたかさを、好きって気持ちのあたたかさを。教えてくれたんです。
「……心残り? そんなもの、たくさんあります」
もっと生きたかった。もっといろんな人に出会いたかった。もっとたくさんの人と話してみたかった。
……っ、好きな人と。愛だって育みたかったっ。大好きな人たちと。もっと一緒にいたかった……!
葵の悲痛な声も、綺麗で冷たい会場に響き渡ったが、何事もなかったかのように、その冷たい壁へと吸い込まれた。
『……それでは、あなたは藍さんを愛してはいないと。そういうことですね』
「……!! そ、れは……」
つい、感情的になりすぎてしまった。
でも、そんなことは会場の参加者は全員知っているから、何も言っては来なかった。だって彼らの目的はただ一つ、葵を枯らすことだけだから。
隣のアイをそっと見上げると、『わかってます』と、小さく苦笑いを返してくれる。
『何かわけがあるのでしょう。それもまた運命』
「……っ」
運命なんて、大嫌いだ。決められた道だって、大嫌いだ。



