「だから、俺が葵のことを引き止めたのをきっかけに、あいつの態度が急変したんだ。今は解雇させる気だったって知ってるけど、……でも、やっぱりキツかったよ」
「シン兄……」
「葵も、俺が限界だと思ったんだよ。俺を『あそこ』から解放してくれたんだ」
「信人さん……」
シントはツバサを見ながら小さく笑っていた。
彼は盗聴器を着けられている状態の自分を、唯一知っているから。話を合わせてくれた彼には、本当に感謝だ。
「繋がるところがあるから、続いて桜李くんのに行こうか。どうして記憶を忘れなくちゃいけなかったのか。……俺は、忘れたくなんかなかったよ」
「しーくん……?」
「理由を知ったのは本当に解雇をされた後、葵の感謝状で知った。……それまで俺は、あいつに無理矢理つけられたんだと思ってたから」
「……? あいつって? あーちゃん?」
「そうだね。葵には違いない」
またそういう言い回しに、みんなの表情は険しくなる。
「その理由は、あそこを辞める代わりにそこでの記憶を消さないといけなかったかららしい」
「……その感謝状ってどんなもの?」
「ん? 『シントが大好き』って」
みんなは苛立ちを隠さないままシントを睨み付けました。
「え。これマジなやつよ?」
「しーくん。詳しくお願い」
「感謝状は、俺が葵の執事として頑張ったからだけど、俺のことを『家族として大好きだ』ってこと。それから、俺の記憶を取り戻すためだと伝えてくれた。最後に、どうやらあいつは俺をまだ放すつもりはないらしいからって、最後の仕事を頼まれたってとこかな」
「……? 最後の仕事って……?」
「それはあとで話すよ。先にみんなの質問に答えさせてね」
「……わかりました」
ちょっとムスッとしていたけれど、それでひとまず納得をしてくれるオウリに、小さく感謝を告げる。
「次は千風くん。……俺が、アキとの縁談のことを知ったのは、3、4年前のことだよ」
「縁談が承認されたのは、いつなのかシントさんは知ってるんすか」
「そうだね。自慢げに葵の両親に教えてもらったよ」
「……そうっすか」
「あれ? いつなのかは聞かないの?」
「それはあいつのことだから、シントさんに聞くことじゃないと思うんで」
シントは、わかってもらえたみたいでよかったと、頬を緩ませた。
「じゃあ、圭撫くんの質問ね」
「はーい。お願いしまーす」
「俺が今、ここの次期当主になってるかってことだけど」
「………………(ごくり)」



