……正直、ちょっと嬉しかったりもしたんだ。薄情な奴だろう? いいんだ。そんな形で勝手に決められたとしても、君のことを一瞬でも支えられるならってさ。
ずっと後悔ばっかりだった。何もできない俺が精々できるのは、この一瞬でしかないと。……この一瞬でも。君のそばにいてあげようって。それが、君への償いだと思ってた。
『これで役立たずは消えるぞ! 駒などいらない! 必要なのは有能な道具だけだっ!!』
そして、ここまで壊してしまった父への贖罪だと。
あんな父に今はなってしまったけど、本当のやさしかった頃に、いつか戻るんじゃないかって。そう、……浅はかだけど思ってた。
狂った父が時々元に戻ったようになった時、いつもスマホの画面を見ていたんだ。
『……梓。……っ、あずさ……』
そう言うのはいつも母の名。でも画面に映っていたのは、いつも君だった。
『大丈夫よ? ほら、これを飲んだら、また強くて賢いあなたになれるわ?』
そうやって暗示をかけるように、父は薬漬けになっていった。
それでも、大事だったんだ。俺の大切な、本当の家族だったから。
君のことも、守ってあげたかった。これで君のことが守れてるかなんてわかんないけど、……俺には、こうするしか。守れる方法がわからなかったから。
それから仲が良かったカオルを、付き人として縛り付けることになった。
『……っ、ごめん。かおる……っ』
『ええ~? 何がごめんなんですう? これで、いつも一緒にいられますねえ』
そう言ってくれるあいつに、本当に心から感謝してた。家の事情にどんどんあいつを巻き込んで……。
『……学校、か……』
どんどん欲深くなっていった二人と秘書は、最終的なターゲットをそこに充てた。
君は、海棠を陥れることを言われてたんでしょ? 俺は、桜を飲み込むよう言われたんだ。元々百合の理事と家は組んでるからね。
皇は、君が内側から崩していってたから満足したみたいだよ? 勝手に落ちぶれていくだろうって。だから海棠を標的に、俺にも命令が来た。
……信じられなくてもいいよ。今まで、こんなギリギリまで言わなかったんだし。
ごめんね。守ってあげられなくて。ごめん。こんな奴で。
……だからあの時、一瞬でも君を幸せにしてあげてかったんだ。何の了承も無しにいろいろしちゃったけど。
え? 気にしてない? ……うわ。そういうのって普通気にするんじゃないの? 女の子なら特に。心が広いというかなんというか……。
やっぱりそういう自覚がないよね! あおいさんは! ……でも、君のそういうところも好きだよ。ずっと追いかけてたんだ、君だけ。君の隣に立ちたくて、……ずっと。
……でも、こんな立ち方はしたくなかったな。ごめんね。助けてあげられなくて、ごめんね。つらい思いを、いっぱいさせてしまった。
俺がこんなことを言うのもどうかと思うけど。……どうか父を。父さんを、許してやって欲しいんだ。
君にも知ってもらいたかった。やさしかった頃の父の姿を。見て、……欲しかったよ。
謝って許されるとは思ってない。でも、父さんの代わりに言わせて欲しい。
今まで、酷いことを強いてきて、本当にごめん。
そして今から、君にとって残酷なことをしてしまって、ごめん。
……ほんとうに。ごめんなさい……っ。



