初めのうちは、家に溶け込むため、介護も仕事も、俺の世話もしてくれていた。でもある日、エリカさんが俺にこう言った。
『――使えない』
まだ小さかった俺は、言葉の意味はよくわからなかった。でも、俺を見る目だけはすごく怖かったのを覚えてる。体が、動かなくなるくらいの恐怖を覚えたんだ。
そうして、祖父が死んだ。介護をしていたのはエリカさん。
『動かせない体に限界が来てたのか、自分で大量に薬を飲んでっ……。助けに入った時には。もう……』
父に泣きながら、悔しそうにそう言っていた彼女のちらりと見えた口元は、愉しそうに嗤っていた。
それから、祖父を亡くしてしまったショックで、父も塞ぎ込むことが多くなった。そんな父を見て、エリカさんはある薬を勧めた。
『……これを飲んだら、少しは気分が楽になると思うわ』
自分を気遣ってくれたエリカさんに、父は何の疑いもなくその薬を飲むことにしたんだ。
エリカさんの口癖はいつも『使えない』だった。俺だけじゃなく、使用人や社員にも、表ではいい顔をしておきながら、裏ではそう漏らしていたのを聞いた。それは、俺の父にさえ。
『あなたならもっとできるわ。もっと有能な人を使って、家を立て直していきましょう?』
俺はもう遠回しに、この会社は家は、バカな奴ばっかりだと。……そう言ってるようにしか聞こえなかった。
父はエリカさんの言う通り、無理矢理時間を作り、有能な人材を血眼になって捜していた。……少しずつ、彼女の毒牙が父を蝕んでいっていた。
そんなある日、父の知り合いから一本の電話が入った。相手は花咲さん。何やら頼みたいことがあるみたいで、会う時間を作って欲しいとのことだった。
エリカさんは、その話に嫌そうな顔をしたものの、渋々了承していた。父は時間を作って、花咲家へと訪れた。
……そこで、君に目をつけたんだ。あおいさん。
『見つけた! 見つけたぞ!!』
帰ってきた父は、部屋に入ってくるなり嬉しそうに笑っていた。
何を見つけたんだろう? どんないいことがあったのだろう?
そうやって父が見せてくれたのは、ある少女の隠し撮りをした写真。どうやら少女は写真を撮って欲しくないみたいで、そういうものはなかったからと、父が彼女に内緒で撮ってきたみたいだ。
『(あ……)』
とっても、可愛かった。
会ってみたかった。話してみたかった。声を、……聞いてみたかった。
父は、とても頭がいい子で、運動神経もいいんだと、嬉しそうに話していた。俺は病気がちで、体を動かすなんて以ての外だったし、勉強なんてしたことがない。
初めはエリカさんも疑いの目でその話を聞いていたけど、父がエリカさんと一緒にピックアップした、家の摘み方を、その少女に相談したらしい。
『あの子は使えるわ。絶対に手に入れる!』
彼女の案に、エリカさんはいいものを見つけたかのように、愉しそうに嗤っていた。
……もう、壊れていたんだ。



