すべてはあの花のために⑦


「だから、俺は死んでたから、調べても出てこなかったってこと」

「調べたのって誰ですか」

「……そりゃ、警察でしょ」

「ふーん」


 その回答にヒナタは、眉毛をぴくりと上げる。


「……さて、次は翼くんにしよう。俺がしてた仕事、だったっけ?」

「……はい。そうですね」


 ツバサも、先程のことに何か引っかかったような顔をしていたが、シントはスルーして話を進めた。


「俺がしてた仕事は、葵の専属執事。他は、主には仕分けかな?」

「『何の』かは、教えてくれないんですね」

「そうだね。これは葵が嫌われると思ってることだ」

「……わかりました」


 ツバサは目をつむって、今までの話の整理をしているようだ。


「次はアキ。俺が皇のパーティーからそれどころじゃなくなったのは、葵に解雇されそうだったから」

「え? どういうこと?」

「あのパーティーで、きちんとお前にも父さんにも、葵の父親は『葵の婚約者はお前だ』と、ハッキリ認めさせる気だったからだ」

「なんでそれがシン兄の解雇になるんだ?」

「俺が葵に行くなって言ったから」

「え?」

「まだ父さんの……おかげというかせいというか。アキは知らなかったわけだし、バレたら折角仲が良くなってたのに、上手く説明できなくて揉めるんじゃないかと思った。あとは、行ってしまったら、アキのところに本当に行くことが決まるから、俺がただ単に行って欲しくなかった」


 あの時、彼女の手を掴んでいたら、どうなっていただろうか。無理矢理にでも……いや、やってもどうせ負けるだろうけれど。そうしたらきっと今、こんな話はできなかっただろうし、それに叶えられなかっただろう。
 そんなことを思っていたら、自分のその言葉に、キサとアキラとトーマ以外が、ピシッと固まっていた。何かあったっけ? と、シントは首を傾げる。


「何。どうしたの? みんな」

「あー。……信人さん? こいつら、もう一回葵ちゃんとバトってる」

「え。なんで杜真が知ってるの?」

「俺が葵ちゃんのことで知らないことがあるわけないじゃん」

「かと思ったけど、意外に知らないんだよな」

「アキ。結構傷つくからやめておいて……」


 そんなトーマとキサとアキラのやりとりに、シントは頭を抱えてしまった。


「あのさ、葵は言いたくないけど、みんなには嘘つきたくないから、それでも頑張って言ったんだと思うんだ」

「そうっすね。だから、勝手に腹立って、アキに嫉妬したオレらが悪いんっすよ」

「俺らもアオイちゃんの言ってること理解できなくって、嫉妬で血が上って当たっちゃったんです。だから俺らが悪いですよ、完全にー」


 チカゼとカナデの言葉に、みんなも頷く。わかってくれているのならよかったと、安堵の息をついた。


「仲直りは? ちゃんとできた?」

「ああ。ちゃんと葵は頑張ってたよ」

「あ。そうなんだ。日向も?」


 ヒナタは堪らず眉根を寄せた。


「え? ひなチャン? どういうこと?」

「え? みんな知らないの? こいつ葵ちゃんに」

「トーマあとであいつの写真あげる超笑顔のやつ」

「え。ありがとう。それじゃあ黙っておいてあげよう~」

「……チッ」


 珍しく慌てているヒナタの様子に、みんなして首を傾げていた。
 揃って同じような反応をするみんなを見て、シントは『みんな可愛いなあ』とか思っていたりする。


「……ちゃんと仲直りしたってば。話進めてくださいよ」


 ヒナタはそっぽを向くけれど、みんなは怪訝な様子でヒナタを見ていた。


「(俺もあとでもらおっかな~?)」


 そんな余計なことを考えてはいたものの、なかなか前に話が進まないと苦情がくる前に話を進めた。