レンは、食器を片付けようとするが、その手をぎゅっと掴む。
「レンくん! 行きたいとこがあるんだけど!」
「え? ちょ、これ片付けてからじゃ……」
「だめだめ! 早くしないと、時間になっちゃうから!」
「え!? ちょっと! あおいさん!?」
葵はレンの腕を引き、もう一人が着替えたのであろう白いワンピースを翻して、屋敷を飛び出した。
「……こ、これって、連れて行くって言うより、連れて行かれてるような、気がするんですけどっ」
「レンくんって体力ないよね!」
「……う、うるさい、ですね」
「初めて引っ張ってもらった時も、女の子よりも体力ないとか、よわ~いって思っちゃった!」
「失礼ですねっ」
「でも、可愛いなって思ったよ!」
「男に可愛い、はっ、褒め言葉じゃっ、ありません」
「ふふっ。知ってる~」
体力がないのに、よく自分の監視ができたな……と思ったけど、だから彼の仕事のメインは裏方だったのかも。そんな風に、勝手に解釈したりもした。
そうして、走ってようやく着いたのは……あの花畑。
「はあー! 間に合ったー!」
「はあ。はあ。はあ。はあ……」
ありゃま。へとへとですな。
「レンくん。もうちょっと先のところなんだけど」
「はあ。はあ。はあ……」
「あのね? 一人で話したいことあるからさ? 声が聞こえないところに、いて欲しいの」
「はあ……。はあ……」
「逃げたりしないよ? ……だから、心配だったら見えるところでいいから見ててね?」
「はあ。……っ、あおいさん」
一度レンは、葵の手首を掴む。僅かに、縋るように。必死な様子を隠しながら。
「ん? なに?」
「……死のう、とか。そんなこと。思わないで」
「……うん。大丈夫だよ? 信じてるから」
葵はにこっと笑って、いつものところまで足を進めた。
「……また来たよ? ルニちゃん」
花畑に座り込み、小さな声で【ハート】に吸い込んでもらう。
「……とうとう、この日がやってきました」
ぽつり。……ぽつり。
「今日、わたしは花を咲かせられないまま、枯れてしまいます」
葵は、言葉を紡いでいく。
「もう一人のわたしは、ただわたしのためを思って罪を犯していました」
今までのことを全部。
「嫌いだったもう一人のわたしを、最後に好きになれて、本当によかったと思ってます」
告白しよう。……言葉に出して。
「わたしは、二重人格です。……それはもう、とびっきり曲者な」
……でも、なんでだろう。
「そのもう一人のわたしに、今日、わたしは飲み込まれます」
言葉にするごとに。
「赤と緑が混ざったその時」
少しだけ、心が軽くなる。
「真っ黒な花が咲いた時」
これも全部、吸い取ってくれてるハートのおかげかもしれない。
「どうかみんな、どこか遠くへ逃げてください」
さあ。話そう。すべてを。
「そしてどうか。花が咲いてしまう前に」
今までの罪の数々を。



