すべてはあの花のために⑦


 レンは、食器を片付けようとするが、その手をぎゅっと掴む。


「レンくん! 行きたいとこがあるんだけど!」

「え? ちょ、これ片付けてからじゃ……」

「だめだめ! 早くしないと、時間になっちゃうから!」

「え!? ちょっと! あおいさん!?」


 葵はレンの腕を引き、もう一人が着替えたのであろう白いワンピースを翻して、屋敷を飛び出した。


「……こ、これって、連れて行くって言うより、連れて行かれてるような、気がするんですけどっ」

「レンくんって体力ないよね!」

「……う、うるさい、ですね」

「初めて引っ張ってもらった時も、女の子よりも体力ないとか、よわ~いって思っちゃった!」

「失礼ですねっ」

「でも、可愛いなって思ったよ!」

「男に可愛い、はっ、褒め言葉じゃっ、ありません」

「ふふっ。知ってる~」


 体力がないのに、よく自分の監視ができたな……と思ったけど、だから彼の仕事のメインは裏方だったのかも。そんな風に、勝手に解釈したりもした。

 そうして、走ってようやく着いたのは……あの花畑。


「はあー! 間に合ったー!」

「はあ。はあ。はあ。はあ……」


 ありゃま。へとへとですな。


「レンくん。もうちょっと先のところなんだけど」

「はあ。はあ。はあ……」

「あのね? 一人で話したいことあるからさ? 声が聞こえないところに、いて欲しいの」

「はあ……。はあ……」

「逃げたりしないよ? ……だから、心配だったら見えるところでいいから見ててね?」

「はあ。……っ、あおいさん」


 一度レンは、葵の手首を掴む。僅かに、縋るように。必死な様子を隠しながら。


「ん? なに?」

「……死のう、とか。そんなこと。思わないで」

「……うん。大丈夫だよ? 信じてるから」


 葵はにこっと笑って、いつものところまで足を進めた。


「……また来たよ? ルニちゃん」


 花畑に座り込み、小さな声で【ハート】に吸い込んでもらう。



「……とうとう、この日がやってきました」


 ぽつり。……ぽつり。


「今日、わたしは花を咲かせられないまま、枯れてしまいます」


 葵は、言葉を紡いでいく。


「もう一人のわたしは、ただわたしのためを思って罪を犯していました」


 今までのことを全部。


「嫌いだったもう一人のわたしを、最後に好きになれて、本当によかったと思ってます」


 告白しよう。……言葉に出して。


「わたしは、二重人格です。……それはもう、とびっきり曲者な」


 ……でも、なんでだろう。


「そのもう一人のわたしに、今日、わたしは飲み込まれます」


 言葉にするごとに。


「赤と緑が混ざったその時」


 少しだけ、心が軽くなる。


「真っ黒な花が咲いた時」


 これも全部、吸い取ってくれてるハートのおかげかもしれない。


「どうかみんな、どこか遠くへ逃げてください」


 さあ。話そう。すべてを。


「そしてどうか。花が咲いてしまう前に」


 今までの罪の数々を。