『(……一年間。無事に誰もわたしの犠牲になることはなかったかな……)』
二年になって最初の下校。
『(きちんと仮面を着けてたんだ。……仮でもいいから。お友達作り。チャレンジしてみようかな)』
上辺だけの友達だとしても、もしかしたら危険な目に遭わせてしまうだろうか。取引先相手だったら大丈夫かな。あとは、……皇 秋蘭とか。
そんなことを考えながら、とぼとぼと帰宅していた。
『(……久し振りにあそこ、行ってみようかな)』
あの子に報告したかった。学校に入って、高校生になって。授業を受けて。
今日は少し遠回りをしようと思った矢先、なんと、めっちゃかわ少年が絡まれているではないか!!
『(え!? うそ!? ウサギさーんっ!)』
初めは、こんなことして、自分に関わったせいで狙われるんじゃないかって、そう思った。
『(でもっ。目の前で起こってるのに。見て見ぬ振りなんてできないよ)』
まあ一番の理由は小動物の救出だけど。そう思って、鞄とブレザーを投げ捨てる。
『……よし! オウリ! もういいぞ! もうこいつら全然関係ないみたいだし!』
『(こくこく)』
実はこっそり隠れていたみんなが、いつでも助けに入れるようには待機していたけど、まあ彼一人でも十分やっつけられるだろう。チカゼの合図で、オウリは目の前の大男を掴み上げようとしたところで。
『――そこまでよ‼︎』
『!?!?』
オウリの目の前の大男を、あっという間に投げ飛ばした美少女が現れた。
『(……きれい)』
技の切れももちろんだったが、何より彼女自体がとても美しく、ただただオウリは見惚れていた。みんなも隠れながら、……そしてカメラを起動しながら、葵の華麗な技裁きを見つめていた。
『(ふうー。こんなもんかな~?)』
あっという間に片付けてしまった。ミズカに言われた通り、葵には敵無しみたいだ。
『…………』
そんな葵のことを、助けた少年が見つめていた。
『(……た。食べちゃいたい……けど、ダメダメ! 仲良くなっちゃ)』
そう思って、お気に入りの防犯ブザーをプレゼントして、葵はキーンッと駆けて行った。
『(……あれだったら、ぜーったいにもう危ない目に遭わないだろう!)』
逆に警察に捕まりそうなブザーだとは、葵が思うはずもなく。
『(……よし。あそこ、行こっと!)』
なんだか、今ならちゃんと話せるかなと思った。
葵は両手を広げたまま、花畑へと向かった。
『……はあっ。はあっ』
運動神経はいいものの、体力だけは通常の人より少し多い程度。そんなに持久力はない。それもあるかもしれないけど、……やっぱりここに来るのは勇気がいった。
どくんどくんと、心臓が大きく音を立てている。
『……こら、れた……』
シントを拾ってからは、ここへは来なくなっていた。
あの頃はただルニだけを求めてきていたけれど、今はここに来ただけで、罪悪感が胸の中を支配する。
『……ちゃ。……っ、ちゃんと。はなす、ね……?』
そう言って葵は、いつものところまで歩いて行って、座り込む。
……でも。言葉が。出せない。息が。……上手くできない。
『…………。っ、はっ』
大丈夫。……大丈夫。ちゃんと。……言わないと。
【聞かないでいてあげるよ?】
ううん。今は聞いて欲しいんだ。
【耳、塞いでてあげる】
いつも、そう言って塞いでないくせに。
あの頃を思い出して。……涙が止まらない。
あの頃を思い出して。……自然と笑みが零れてくる。
『……あのね? ルニちゃん。わたし、あおいっていうの』



