すべてはあの花のために⑦


『(……一年間。無事に誰もわたしの犠牲になることはなかったかな……)』


 二年になって最初の下校。


『(きちんと仮面を着けてたんだ。……仮でもいいから。お友達作り。チャレンジしてみようかな)』


 上辺だけの友達だとしても、もしかしたら危険な目に遭わせてしまうだろうか。取引先相手だったら大丈夫かな。あとは、……皇 秋蘭とか。
 そんなことを考えながら、とぼとぼと帰宅していた。


『(……久し振りにあそこ、行ってみようかな)』


 あの子に報告したかった。学校に入って、高校生になって。授業を受けて。
 今日は少し遠回りをしようと思った矢先、なんと、めっちゃかわ少年が絡まれているではないか!!


『(え!? うそ!? ウサギさーんっ!)』


 初めは、こんなことして、自分に関わったせいで狙われるんじゃないかって、そう思った。


『(でもっ。目の前で起こってるのに。見て見ぬ振りなんてできないよ)』


 まあ一番の理由は小動物の救出だけど。そう思って、鞄とブレザーを投げ捨てる。



『……よし! オウリ! もういいぞ! もうこいつら全然関係ないみたいだし!』

『(こくこく)』


 実はこっそり隠れていたみんなが、いつでも助けに入れるようには待機していたけど、まあ彼一人でも十分やっつけられるだろう。チカゼの合図で、オウリは目の前の大男を掴み上げようとしたところで。


『――そこまでよ‼︎』

『!?!?』


 オウリの目の前の大男を、あっという間に投げ飛ばした美少女が現れた。


『(……きれい)』


 技の切れももちろんだったが、何より彼女自体がとても美しく、ただただオウリは見惚れていた。みんなも隠れながら、……そしてカメラを起動しながら、葵の華麗な技裁きを見つめていた。


『(ふうー。こんなもんかな~?)』


 あっという間に片付けてしまった。ミズカに言われた通り、葵には敵無しみたいだ。


『…………』


 そんな葵のことを、助けた少年が見つめていた。


『(……た。食べちゃいたい……けど、ダメダメ! 仲良くなっちゃ)』


 そう思って、お気に入りの防犯ブザーをプレゼントして、葵はキーンッと駆けて行った。


『(……あれだったら、ぜーったいにもう危ない目に遭わないだろう!)』


 逆に警察に捕まりそうなブザーだとは、葵が思うはずもなく。


『(……よし。あそこ、行こっと!)』


 なんだか、今ならちゃんと話せるかなと思った。
 葵は両手を広げたまま、花畑へと向かった。



『……はあっ。はあっ』


 運動神経はいいものの、体力だけは通常の人より少し多い程度。そんなに持久力はない。それもあるかもしれないけど、……やっぱりここに来るのは勇気がいった。
 どくんどくんと、心臓が大きく音を立てている。


『……こら、れた……』


 シントを拾ってからは、ここへは来なくなっていた。
 あの頃はただルニだけを求めてきていたけれど、今はここに来ただけで、罪悪感が胸の中を支配する。


『……ちゃ。……っ、ちゃんと。はなす、ね……?』


 そう言って葵は、いつものところまで歩いて行って、座り込む。
 ……でも。言葉が。出せない。息が。……上手くできない。


『…………。っ、はっ』


 大丈夫。……大丈夫。ちゃんと。……言わないと。


【聞かないでいてあげるよ?】


 ううん。今は聞いて欲しいんだ。


【耳、塞いでてあげる】


 いつも、そう言って塞いでないくせに。
 あの頃を思い出して。……涙が止まらない。
 あの頃を思い出して。……自然と笑みが零れてくる。


『……あのね? ルニちゃん。わたし、あおいっていうの』