すべてはあの花のために⑦


『――彼女が何かを言ってくるまで、水を増やすことも止めることもするな。花が枯れようとしてるのも止めるな。花が枯れた時、彼女が『願い』を叶えられていなかったら、お前がぼくの『願い』を叶えろ。そして、黒い花が咲いた時はあいつらを植え替えろ――』


「は? 意味わかんねえんだけど。てかさっきのも」

「――千風くん」


 シントがチカゼの言葉を途中で止める。


「な、……なんっすか」

「今言った言葉に関して、解釈は人それぞれだ。君の胸の中で考えなさい」

「……わかりました」


 みんなも同じことを思ったのか、ぐっと言葉を飲み込んでいる。


「……本当は、このことも話させるつもりはなかったんだけど」

「……? 信人さん?」


 トーマは、シントが呟いた言葉は聞き取れなかったが、どこかつらそうな表情をしているシントに再び声を掛ける。


「……まあ要するに、紀紗ちゃんも杜真くんもそして朝倉先生も、葵に何かを言われたら『願い』を叶える手伝いをするつもりだったということ。杜真くんはアキの時に、少し手伝ってくれたから、さっきはありがとうって言ったんだ」


 アキラは、やっと話が繋がったと頷いていた。


「紀紗ちゃんには『願い』の直接的な手助けをお願いすることはなかったけど、……葵のこと、いろいろと支えてやってくれて、ありがとう」

「あたしは、理事長に言われたからしていたわけじゃありませんっ」

「うん。わかってるよ」

「あっちゃんには助けてもらったから。……だから。あっちゃんには幸せになってもらいたいし、あたしができることならしてあげたいって。……そう。思っ……」

「うん。大丈夫だ」

「……っ、大好きなんです。あっちゃんがっ。大事なんです……!」


 そう必死に紡ぐキサの切ない声に、みんなも胸が苦しくなる。


「うん。ありがとう。葵も同じ気持ちだから、願いを叶えたんだよ」


 キサは「……っ。はい……」と、小さく肩を震わせていた。


「さて、と。……紀紗ちゃんと杜真くんのことは、みんなわかったかな」

「なんで紀紗たちには理事長は言ったのに、俺らには言わなかったんだ」

「いや、だから原因は朝倉先生に問題があるんだって……」

「……? というと?」


 シントは――バンッ! と机を叩いて立ち上がった。


「大事なことをっ! ぽろっと言ったから! 理事長に注意してもらったのっ!!!!」

「「すみません。菊(ちゃん)にはよく言っておきます……」」


 謝った。二人はとにかく謝った。大人の彼に代わり、平に平に。


「はあはあ。……ほんと、あの口軽い先生頼むよマジで! 葵が許してるんなら俺も何も言わないけど! 葵が嫌がってることしようもんなら、この世から抹殺するっ!」

「ごめんなさい信人さん。代わりにあたしがやっておくので」

「え? 彼女じゃん。ダメでしょ。普通はそこは庇わないと」

「いや、あっちゃんを苦しめるようなら、たとえ菊ちゃんでも許しません。絞めておきます」

「え。冗談だからね? ほどほどにね?」

「当たり前です。菊ちゃんが死ぬならあたしも死ぬので」


「ふんっ!」と言ってるキサは、怒っているようにも見えたけど、もう隠さなくてよくなってほっとしているようにも見えた。