『――彼女が何かを言ってくるまで、水を増やすことも止めることもするな。花が枯れようとしてるのも止めるな。花が枯れた時、彼女が『願い』を叶えられていなかったら、お前がぼくの『願い』を叶えろ。そして、黒い花が咲いた時はあいつらを植え替えろ――』
「は? 意味わかんねえんだけど。てかさっきのも」
「――千風くん」
シントがチカゼの言葉を途中で止める。
「な、……なんっすか」
「今言った言葉に関して、解釈は人それぞれだ。君の胸の中で考えなさい」
「……わかりました」
みんなも同じことを思ったのか、ぐっと言葉を飲み込んでいる。
「……本当は、このことも話させるつもりはなかったんだけど」
「……? 信人さん?」
トーマは、シントが呟いた言葉は聞き取れなかったが、どこかつらそうな表情をしているシントに再び声を掛ける。
「……まあ要するに、紀紗ちゃんも杜真くんもそして朝倉先生も、葵に何かを言われたら『願い』を叶える手伝いをするつもりだったということ。杜真くんはアキの時に、少し手伝ってくれたから、さっきはありがとうって言ったんだ」
アキラは、やっと話が繋がったと頷いていた。
「紀紗ちゃんには『願い』の直接的な手助けをお願いすることはなかったけど、……葵のこと、いろいろと支えてやってくれて、ありがとう」
「あたしは、理事長に言われたからしていたわけじゃありませんっ」
「うん。わかってるよ」
「あっちゃんには助けてもらったから。……だから。あっちゃんには幸せになってもらいたいし、あたしができることならしてあげたいって。……そう。思っ……」
「うん。大丈夫だ」
「……っ、大好きなんです。あっちゃんがっ。大事なんです……!」
そう必死に紡ぐキサの切ない声に、みんなも胸が苦しくなる。
「うん。ありがとう。葵も同じ気持ちだから、願いを叶えたんだよ」
キサは「……っ。はい……」と、小さく肩を震わせていた。
「さて、と。……紀紗ちゃんと杜真くんのことは、みんなわかったかな」
「なんで紀紗たちには理事長は言ったのに、俺らには言わなかったんだ」
「いや、だから原因は朝倉先生に問題があるんだって……」
「……? というと?」
シントは――バンッ! と机を叩いて立ち上がった。
「大事なことをっ! ぽろっと言ったから! 理事長に注意してもらったのっ!!!!」
「「すみません。菊(ちゃん)にはよく言っておきます……」」
謝った。二人はとにかく謝った。大人の彼に代わり、平に平に。
「はあはあ。……ほんと、あの口軽い先生頼むよマジで! 葵が許してるんなら俺も何も言わないけど! 葵が嫌がってることしようもんなら、この世から抹殺するっ!」
「ごめんなさい信人さん。代わりにあたしがやっておくので」
「え? 彼女じゃん。ダメでしょ。普通はそこは庇わないと」
「いや、あっちゃんを苦しめるようなら、たとえ菊ちゃんでも許しません。絞めておきます」
「え。冗談だからね? ほどほどにね?」
「当たり前です。菊ちゃんが死ぬならあたしも死ぬので」
「ふんっ!」と言ってるキサは、怒っているようにも見えたけど、もう隠さなくてよくなってほっとしているようにも見えた。



