『…………』
シントは、突き付けられた契約書を見ていた。
それはほんの少し前。葵がシントを連れて、家に帰ってきて、アザミに執事候補を拾ってきたと、連絡を入れた。
『……拾ったって……』
その通りだけどと思っていたら、どうやらここは本邸じゃないみたいで、すぐにそっちの応接間に来るように指示が出たらしい。
『……葵はさ、こっちの家で一人で住んでるの?』
『(名前!!)はい! ……そう、なんです……』
『(……それ以上言わないってことは、聞くなってことかな……)』
少し寂しそうな顔になった。きっと言いたくないんだろうと思って、シントはそれ以上口にすることはなかった。
『お父様、失礼します』
すでに待っているだろう、葵は声を掛けてから応接間の扉を開けた。
『お父様。今日はご相談があってきたんです』
『お前などに執事など付けるわけがないだろう』
『(え。……何。なんで葵、父親にこんな扱いされてるの……)』
それは帰りたくもなくなるなと思った。
『でもでも! シントさん、いろんなことできるし、とっても賢いんですよ?』
『お前より頭が切れるわけでもないだろうに』
『(いや、俺本当に結構頭いいですけど……)』
でも、……なんだ。この自信は。葵の頭に、絶対な信頼はあるみたいな言い方。
そうしていると父と呼ばれた男に、シントはまるで品定めでもされるかのように睨み付けられた。
『……お前は……』
『……?』
『……? おとう、さま?』
そうしてしばらくアザミは、『……そうか。シント。信人か……』と、ぶつぶつ呟いていたが。
『(……なんだ。この感じ。家なんか比じゃないくらい、気持ち悪い……)』
『……しんと、さん……?』
不安げに見つめてくる彼女に、心配なんか掛けたくなかった。
『(葵は命の恩人だ。あのままだったら俺は、絶対に壊れていた。……。っ、ごめん。あき。とうさん。かえで……っ)』
そうしていると、いきなりアザミが嗤いだした。『いいものを拾った』と、大きな声を出して、愉しそうに。
『いいだろう。お前に執事をつけてやろう』
『ほんとですか!』
嬉しそうに葵が喜ぶ。本当に嬉しいみたいで、顔が綻んでいる。
『(……あーやば。めっちゃ可愛い……)』
『ちょっと、こいつとこれからのことについて話すからな、お前は部屋に帰っていなさい』
『わかりました! ……それじゃあ、シントさん。またあとで!』
そう言って葵は、るんるんで部屋を出て行った。
『(葵は嬉しそうだった。そう思ってくれて、俺も嬉しい。……でも、こいつ。なんだ……? 何を企んで……)』
そうこうしていると、アザミはどこかに連絡を入れたあと、シントと話をし出す。
『……ようこそ。皇家長男、皇信人くん』
『――……!?』
なんでだ。名乗ってすらいないのに……。
『まさか、駒がこれ以上ないいい仕事をしてくれるとはな。いいものを拾ってきてくれた』
ゲラゲラと、愉しげに嗤い出す。
『家は大変みたいだね。お父様はまだ、壊れてるのかな?』
『……!? ……ッ、何故それを知っている』
『いい目だ。流石、皇の未来を背負うはずだったものの目』
『答えろ!』
声を荒げるシントに、面倒くさそうにアザミは話し出す。
『……言っておくが、全部やったのはお前を拾ってきた奴だ』
『きちんと説明しろと言っている』
好戦的な態度に、アザミは愉しそうに口角を上げる。
それからシントは、葵が今までどうしていたか。どうしてここへ来たのか。ここで何をしていたのか。説明をされた。



