すべてはあの花のために⑦


 そう言ってアザミは楽しげに笑ったあと、部屋を出て行こうとした。


『おう。そうだな。忘れるところだった』


 地べたにへたり込んでいる葵の顎を、無理矢理掴み上げる。


『もうあそこへ行っても無駄だぞ』

『……。え……』

『お前などに、親しいものなど必要ないだろう』

『……え。……な、なに。を……』

『お前はただ家のためにその時間を削り、家のために消えればいい』

『……なにを、したんですか』

『とある筋からの情報でな。お前が勉学に励まず、無駄な時間を過ごしていると聞いた』

『あの子に。……何をしたって聞いてるんです……!』

『消えてもらった』

『――……ッ!!』

『ハッキリ言ってやろう。あの黒髪の可愛らしい少女には、……死んでもらった』

『――……』

『お前が心など許してどうする。ここのことが漏れたら困ったものじゃないからな』

『……。言って。ないのに』

『そんなこと知るか。不安要素は排除する。それまでだ』

『……。るに、ちゃんは。なにも、しらないのに……』

『そんなことはどうだっていい。お前はただ家のためあそこを卒業し、家のために消えろ。さっさとな。あの子のような子を出したくないのであれば、親しいものなど作らないことだ』


 バタンと扉を閉め、アザミはさっさと出て行った。


『…………』


 ……うそだ。


『……るに。ちゃん……』


 うそだ。……うそだ。


『……。まもってっ。あげ、られなか。ったっ……』


 守って。あげたかった。


『……るにちゃん……』


 ……ごめんなさい。


『……っ、るにちゃんっ』


 わたしのせいで。また……っ。


『……っ。るにちゃん……! ……っ、うぅっ。うぅ……』


 ごめん。……ごめんなさい。



 わたしなんかと、仲良くなったから。

 わたしなんかと、話したから。

 わたしなんかと、出会ったから。

 わたしなんか。……生まれてこなければよかった。


 ……誰とも。仲良く、ならない。

 わたしは、駒。道具でもない。ただの、家の駒。

 ただ消える。わたしは、そのためだけに、生まれたの……?

 こんなことするために、生まれたかったわけじゃないのに。


 ……だったらもう、消えてやる。

 わたしなんか。……消えちゃえばいいんだ。



『……っ、あおい……ッ』


 心が壊れた葵は、滅多に表に出てこなくなった。
 代わりに出てきた赤は、悔しそうな顔をしながらただ、仕事をするしかなかった。