そう言ってアザミは楽しげに笑ったあと、部屋を出て行こうとした。
『おう。そうだな。忘れるところだった』
地べたにへたり込んでいる葵の顎を、無理矢理掴み上げる。
『もうあそこへ行っても無駄だぞ』
『……。え……』
『お前などに、親しいものなど必要ないだろう』
『……え。……な、なに。を……』
『お前はただ家のためにその時間を削り、家のために消えればいい』
『……なにを、したんですか』
『とある筋からの情報でな。お前が勉学に励まず、無駄な時間を過ごしていると聞いた』
『あの子に。……何をしたって聞いてるんです……!』
『消えてもらった』
『――……ッ!!』
『ハッキリ言ってやろう。あの黒髪の可愛らしい少女には、……死んでもらった』
『――……』
『お前が心など許してどうする。ここのことが漏れたら困ったものじゃないからな』
『……。言って。ないのに』
『そんなこと知るか。不安要素は排除する。それまでだ』
『……。るに、ちゃんは。なにも、しらないのに……』
『そんなことはどうだっていい。お前はただ家のためあそこを卒業し、家のために消えろ。さっさとな。あの子のような子を出したくないのであれば、親しいものなど作らないことだ』
バタンと扉を閉め、アザミはさっさと出て行った。
『…………』
……うそだ。
『……るに。ちゃん……』
うそだ。……うそだ。
『……。まもってっ。あげ、られなか。ったっ……』
守って。あげたかった。
『……るにちゃん……』
……ごめんなさい。
『……っ、るにちゃんっ』
わたしのせいで。また……っ。
『……っ。るにちゃん……! ……っ、うぅっ。うぅ……』
ごめん。……ごめんなさい。
わたしなんかと、仲良くなったから。
わたしなんかと、話したから。
わたしなんかと、出会ったから。
わたしなんか。……生まれてこなければよかった。
……誰とも。仲良く、ならない。
わたしは、駒。道具でもない。ただの、家の駒。
ただ消える。わたしは、そのためだけに、生まれたの……?
こんなことするために、生まれたかったわけじゃないのに。
……だったらもう、消えてやる。
わたしなんか。……消えちゃえばいいんだ。
『……っ、あおい……ッ』
心が壊れた葵は、滅多に表に出てこなくなった。
代わりに出てきた赤は、悔しそうな顔をしながらただ、仕事をするしかなかった。



