「――殺したく、なるだろうな」
そして目蓋を押し上げたシントの瞳は、すっと研ぎ澄まされていた。今すぐこの場の誰かを殺してしまうほどの殺気が、彼から漏れ出ている。
「……誰をですか」
「ん? そんなの『葵』に決まってるでしょ?」
笑っているけれど、声には未だ殺気が含まれていた。
「でもあなたはあいつを殺してない。専属執事だったなら、いつでも殺す機会はあったはず」
恐ろしいことを、ヒナタは淡々と尋ねた。でもどこか必死さが伝わってきて、シントはそこでようやくクスッと笑みをもらす。
「確かに、専属だからいつでも殺せたね」
「『なるだろう』ってことは、『ならなかった』んですよね」
「はは。……うん、そうだね?」
楽しげなシントに、ヒナタは嫌そうな顔で返す。
「ハッキリ言ってもらえませんか。大概ムカつくんで」
「そんな嫌そうにしないでよ。嬉しかったのに」
「時間の無駄です。ページ数の無駄です。読者様の貴重な時間の無駄です」
「そ、それは。……ごめんなさい」
シントは机に頭をゴツン! とつけて謝った▼
「俺が、葵を殺そうと思わなかったのは、葵を知ってたから。あいつのことを、理解してやったから」
言い回しに、みんなが頭を痛める。
「つまり、あいつが『願い』を叶える根本の理由だけをオレたちが知ったら、オレらもあいつらを殺したくなる、と。そういうことでいいですか」
「う、うん。そうだけど、よくそんな怖いこと言えるね」
「だって殺さないし。ま、オレはですけど」
それが聞けて満足したのか、ヒナタは視線を逸らしていた。
「(……あれ? 他に葵が嫌われると思ってること、聞かないんだ)」
もしかしたら彼は、カードを解いたのかもしれないと、シントは思った。
「シン兄が、葵に近づいて知れと言っていたのは、そのことを知れということか?」
「まあそうだね。あとはそのカードのこと全部。それから、どうして葵が仮面を着けてるのか」
「それは、直接教えてもらったわけじゃないですけど、俺ら何となくわかりましたよー?」
「え? そうなの?」
でも首を傾げているトーマを見て、聞いたのはみんなだけかも知れないとシントはそこでカナデを止めた。
「ハッキリと言われてないなら、そう思っておくことにしておいて? 葵は言ったつもりないかもしれないから」
シントのその言葉に、みんなは頷いた。
「あと片付けておくのは……紀紗ちゃんと杜真くんが言われた『願い』かな? あと朝倉先生」
「えー。あれ言うんですか」
「あたしも、言いたくないんですけど……」
「はい。頑張って言いましょうー」
二人はがっくり肩を落とし、視線でどっちが言うのかやりとりしている。
「はあ。……俺らが言われたのは」
結局のところ、トーマが負けました。



