『……ハナちゃんさー』
『……。ん……? なあに……?』
頭を撫でながら、ルニは小さな声で尋ねた。
『ちゅーはじめてだった?』
『……!?!?』
『え』
『……はっ。はじ、めてで。……でもっ。口と口はっ。……特別な人じゃ、ないとっ。ダメって。聞いて……』
『……あたしは?』
『……??』
『特別じゃ、ないの……?』
『え? ええ……? る、るにちゃん……??』
何故だろう。だんだん顔が近寄ってくるんですけど。
『あたし、ハナちゃん好きだよ? 特別。ハナちゃんもでしょ?』
『で、でもっ。女の子、同士……』
『……ハナちゃん、知らないの? れずって』
『え? ……なにそれ』
『女の子同士が、こういうことするの。……んっ』
『……!!』
ルニは、葵のほっぺたにキスを落とす。
『真っ赤だ。……かわいいハナちゃん』
『る、るにちゃん……』
こ、こういうことって恋人同士がするものじゃないの……?
『はは。冗談だよ? 慌ててる~』
『え!? ……る、るにちゃん……!』
そんな軽い調子のルニに、葵は思いっきり飛びかかってくすぐりまくった。
『や。やめっ。……はなちゃん! すとっぷ……!』
『いやだよ~ん。こちょこちょこちょ~』
結局、ルニが酸欠で倒れそうになる直前までくすぐった。
『それじゃあね! ルニちゃん!』
『……次会ったら、絶対一番にハナちゃんくすぐるから』
いつもの分かれ道に来てちょっと離れて、一度振り返る。
『それじゃあまたね! ルニちゃん!』
『またね。ハナちゃん』
そうやって手を振って帰る。でも、いっつもなかなか二人とも帰らなくって、いっせーのっせ! で振り返ってから歩き出す。
『(今日はルニちゃんにいじられちゃったから、一回振り返って、すぐに振り返るんだ~)』
なんだか勝った気分になれそうな気がするから。葵は振り返ってすぐ、もう一度ルニのいる方へと振り返った。
『…………え?』
『あーあ。ばれちゃった』
振り返ったら、ルニがこっちを向いていた。
『ほらハナちゃん。早く帰って? 帰れないから』
『え? ……え? る、……るにちゃん……?』
なんで、こっちを向いているの? もしかして、今までずっと……。
『……帰らないと、またちゅーするぞ』
『……!! か、帰る!! ……ま、また。ね……?』
ダダダーッと葵は走って帰ったけれど。
『(……い、今までずっと。見送ってくれてたの、かな……)』
そうじゃないかもしれないのに、なんだか心の奥が、じわっとあったかくなった。
けれど、この日を最後に、ルニはあの場所に来ることはなかった。



