すべてはあの花のために⑦


 葵は、そう言ってルニの手を取りながら話す。


『わたしが、本当に信用できる人に渡してって。守ってあげたいって思う人に、渡しなさいって』

『……信用? 守ってあげたい?』

『うん。わたしがそう思うってことは、向こうもそう思ってくれているはずだからって』

『ハナちゃん……』

『だから自分を信じろって。そしてその人を信じろって。……そう言われたの』

『……。はな、ちゃん……?』


 言うごとに影が差す葵の顔を、ルニが心配そうに見つめる。


『だから、わたしが今大切なのはルニちゃんだけってこと! 大事で大好きなのは、ルニちゃんだけだよ』

『……!!』


 それを払拭するように、とびきりの笑顔でそう伝えた。


『ルニちゃんならきっと、気づいてくれるから……』

『……ハナちゃん?』

『大切にしてね? わたしの絵本』


 ルニは葵の手をぎゅっと握り返す。


『よく、わかんないけど。……うん。大事にする。気づく? は、何にかわかんないけど。何か仕掛けがあるの?』

『は……!』

『あるんだね』


 でも、なんだか楽しそうだ。


『……任せて! わかったら絶対報告するからね』

『……! ……うん。ありがとうルニちゃん!』


 それから二人で今日も花を使って遊んだり、お話したりした。
 そんなに話は続かなかったりしたけど、でも一緒にいられるだけで、葵はとっても楽しかった。あんなとこ、ずっといたら、息が詰まるから。

 そろそろ帰る時間になってしまった。


『あ。……もうこんな時間か』

『……いやだなあ』


 葵はルニの服をぎゅっと掴む。


『……ハナちゃん? また遊ぶでしょ?』

『……うん。あそぶ』


 でも、なんだか今日は離したくなかった。


『……それじゃあ、もうちょっとだけね?』


 そう言ってルニは、葵の手をぎゅうっと握ってくれた。


『あったかい……』

『こどもだからね』

『やっぱりルニちゃんはおひさまの子なんだね』

『おひさま……? ふつうにお母さんから生まれたけど……』

『はは。ううん、なんかそんな感じがしていいなって思って』

『だったらハナちゃんは、お花の子……お花のお姫さまだ』

『え? わ、わたしはそんなきれいじゃないよ』

『あたしがそう思ってるからいいの。絵本にだってなってるし』

『……ほんとうは、悪魔の子かもしれないのに?』

『それだけはないね』

『……なんで。そんなこと言ってくれるの……?』

『あたしの大切なハナちゃんが、悪魔の子なんて有り得ない』

『……るに。ちゃん……』


 葵は目を見開いた。目の前のルニが、なんだかとっても格好よく見えたんだ。


『さっきハナちゃん言ってくれた。あたしも同じ。ハナちゃんが好き』

『――……!』

『大切。大事。……うーん。そんな言葉じゃ表せられないなあ。なんだろう』

『……っ。じゅうぶんだっ』


 そう思ったら、葵の目から涙がころころ……と転がっていた。


『……もう。今度はなんで泣いてるの?』

『う。うれし。なき』


 ゴシゴシ……。と、葵は目元を拭くけど、何度やっても涙は止まらなかった。


『……そんなに嬉しかったの?』

『……うんっ。わたし、にはっ。そう。言ってくれる人はもう。いなかったっ。から……』

『ハナちゃん……』

『……あり。がと』

『うん?』

『るにちゃん。……ありがと』

『……どういたしまして』


 ルニは、葵が泣き止むまでずっと頭を撫でてやった。