葵は、そう言ってルニの手を取りながら話す。
『わたしが、本当に信用できる人に渡してって。守ってあげたいって思う人に、渡しなさいって』
『……信用? 守ってあげたい?』
『うん。わたしがそう思うってことは、向こうもそう思ってくれているはずだからって』
『ハナちゃん……』
『だから自分を信じろって。そしてその人を信じろって。……そう言われたの』
『……。はな、ちゃん……?』
言うごとに影が差す葵の顔を、ルニが心配そうに見つめる。
『だから、わたしが今大切なのはルニちゃんだけってこと! 大事で大好きなのは、ルニちゃんだけだよ』
『……!!』
それを払拭するように、とびきりの笑顔でそう伝えた。
『ルニちゃんならきっと、気づいてくれるから……』
『……ハナちゃん?』
『大切にしてね? わたしの絵本』
ルニは葵の手をぎゅっと握り返す。
『よく、わかんないけど。……うん。大事にする。気づく? は、何にかわかんないけど。何か仕掛けがあるの?』
『は……!』
『あるんだね』
でも、なんだか楽しそうだ。
『……任せて! わかったら絶対報告するからね』
『……! ……うん。ありがとうルニちゃん!』
それから二人で今日も花を使って遊んだり、お話したりした。
そんなに話は続かなかったりしたけど、でも一緒にいられるだけで、葵はとっても楽しかった。あんなとこ、ずっといたら、息が詰まるから。
そろそろ帰る時間になってしまった。
『あ。……もうこんな時間か』
『……いやだなあ』
葵はルニの服をぎゅっと掴む。
『……ハナちゃん? また遊ぶでしょ?』
『……うん。あそぶ』
でも、なんだか今日は離したくなかった。
『……それじゃあ、もうちょっとだけね?』
そう言ってルニは、葵の手をぎゅうっと握ってくれた。
『あったかい……』
『こどもだからね』
『やっぱりルニちゃんはおひさまの子なんだね』
『おひさま……? ふつうにお母さんから生まれたけど……』
『はは。ううん、なんかそんな感じがしていいなって思って』
『だったらハナちゃんは、お花の子……お花のお姫さまだ』
『え? わ、わたしはそんなきれいじゃないよ』
『あたしがそう思ってるからいいの。絵本にだってなってるし』
『……ほんとうは、悪魔の子かもしれないのに?』
『それだけはないね』
『……なんで。そんなこと言ってくれるの……?』
『あたしの大切なハナちゃんが、悪魔の子なんて有り得ない』
『……るに。ちゃん……』
葵は目を見開いた。目の前のルニが、なんだかとっても格好よく見えたんだ。
『さっきハナちゃん言ってくれた。あたしも同じ。ハナちゃんが好き』
『――……!』
『大切。大事。……うーん。そんな言葉じゃ表せられないなあ。なんだろう』
『……っ。じゅうぶんだっ』
そう思ったら、葵の目から涙がころころ……と転がっていた。
『……もう。今度はなんで泣いてるの?』
『う。うれし。なき』
ゴシゴシ……。と、葵は目元を拭くけど、何度やっても涙は止まらなかった。
『……そんなに嬉しかったの?』
『……うんっ。わたし、にはっ。そう。言ってくれる人はもう。いなかったっ。から……』
『ハナちゃん……』
『……あり。がと』
『うん?』
『るにちゃん。……ありがと』
『……どういたしまして』
ルニは、葵が泣き止むまでずっと頭を撫でてやった。



