葵がパチパチと手を叩いて褒めると、ちょっと照れたようにルニはそっぽを向いた。
『ハナちゃん頭いい。いいなー』
『え? ……そんなこと、ないよ』
『?? ……』
一気にテンションが暗くなってしまった葵に、ルニは空気を読んで話題を変えた。
『どうしたの? こんな絵本、見たことない』
『……これ。世界に一個しかないの』
『え……!?』
葵がそう言うと、ルニは慌ててバッ! と手を離して、また慌ててキャッチした。
『……ど、どうしたの!?』
『世界に一つしかない……。ハナちゃんの家はお金持ち……。絶対にこれ。めっちゃ高い。高級な絵本だあぁ……』
『え? ルニちゃん? 大丈夫?』
『……こ、こんな高価なものっ、いただけないよ!』
そう言ってルニは葵に絵本を返してくる。
『え? 高価なものじゃないよ? だってこれ、タダでもらったんだし』
『ただでもらった……? ……それくらいハナちゃんの家は有名で。お、お嬢様だったのかあああぁ……』
『る、るにちゃ~ん。……ほんとこれ。そんな価値はないと思うよ?』
『うそばっかり! 絶対高いもん! ……どうしよお……。指紋つけちゃったあ……』
『だ、だから。これ、本当にもらいものなんだって。趣味で描いてる人からもらったから、本当に0円だし』
『……最初から言ってよー』
『(……コロって変わりやがった。扱いが一気に雑だしっ)』
でも、開いて興味津々に見ていた。
『(……この絵本に仕掛けたこと、わたしもわかったから、それに便乗しちゃった)』
この絵本は、普通に読んだら【むかしむかし】から始まるページにしか開かないようになっていた。その仕掛けに乗じて、葵もいろいろ付け足したのだ。もう一人にもバレないように、こっそりと。
ルニなら、きっと葵のこの苦しみに気づいてくれると、……そう、信じて。
『【むかしむかし】、いっぱいある。作った人下手だね』
『(ヒイノさん。酷い言われよう。……ごめんね)』
でも真剣な目で、ルニは絵本を読んでいた。
『……これ。その人が、わたしを主人公に描いてくれた絵本で』
『え』
『ルニちゃんに、渡したいって思ったの』
『っ、え。……な、なんで?』
ルニは一度本を閉じ、葵に視線を向ける。
『その人がね、わたしが信じられる、大切で大好きな人に渡しなさいって言ったの。守ってあげたいって思う人に、渡しなさいって』
『……大事なものなのに。あ、あたしでいいの……?』
『うん。ルニちゃんがいい。ルニちゃんじゃないと嫌』
『………………』
即答する勢いに、ルニは驚いてしまう。
『……お家の人とかじゃなくて、いいの?』
『うん。ダメだって言われたの。描いてくれた人に』
『……そうなんだ』
『わたしの。……大事な人なんだ』
『え……?』



