すべてはあの花のために⑦


 葵がパチパチと手を叩いて褒めると、ちょっと照れたようにルニはそっぽを向いた。


『ハナちゃん頭いい。いいなー』

『え? ……そんなこと、ないよ』

『?? ……』


 一気にテンションが暗くなってしまった葵に、ルニは空気を読んで話題を変えた。


『どうしたの? こんな絵本、見たことない』

『……これ。世界に一個しかないの』

『え……!?』


 葵がそう言うと、ルニは慌ててバッ! と手を離して、また慌ててキャッチした。


『……ど、どうしたの!?』

『世界に一つしかない……。ハナちゃんの家はお金持ち……。絶対にこれ。めっちゃ高い。高級な絵本だあぁ……』

『え? ルニちゃん? 大丈夫?』

『……こ、こんな高価なものっ、いただけないよ!』


 そう言ってルニは葵に絵本を返してくる。


『え? 高価なものじゃないよ? だってこれ、タダでもらったんだし』

『ただでもらった……? ……それくらいハナちゃんの家は有名で。お、お嬢様だったのかあああぁ……』

『る、るにちゃ~ん。……ほんとこれ。そんな価値はないと思うよ?』

『うそばっかり! 絶対高いもん! ……どうしよお……。指紋つけちゃったあ……』

『だ、だから。これ、本当にもらいものなんだって。趣味で描いてる人からもらったから、本当に0円だし』

『……最初から言ってよー』

『(……コロって変わりやがった。扱いが一気に雑だしっ)』


 でも、開いて興味津々に見ていた。


『(……この絵本に仕掛けたこと、わたしもわかったから、それに便乗しちゃった)』


 この絵本は、普通に読んだら【むかしむかし】から始まるページにしか開かないようになっていた。その仕掛けに乗じて、葵もいろいろ付け足したのだ。もう一人にもバレないように、こっそりと。

 ルニなら、きっと葵のこの苦しみに気づいてくれると、……そう、信じて。


『【むかしむかし】、いっぱいある。作った人下手だね』

『(ヒイノさん。酷い言われよう。……ごめんね)』


 でも真剣な目で、ルニは絵本を読んでいた。


『……これ。その人が、わたしを主人公に描いてくれた絵本で』

『え』

『ルニちゃんに、渡したいって思ったの』

『っ、え。……な、なんで?』


 ルニは一度本を閉じ、葵に視線を向ける。


『その人がね、わたしが信じられる、大切で大好きな人に渡しなさいって言ったの。守ってあげたいって思う人に、渡しなさいって』

『……大事なものなのに。あ、あたしでいいの……?』

『うん。ルニちゃんがいい。ルニちゃんじゃないと嫌』

『………………』


 即答する勢いに、ルニは驚いてしまう。


『……お家の人とかじゃなくて、いいの?』

『うん。ダメだって言われたの。描いてくれた人に』

『……そうなんだ』

『わたしの。……大事な人なんだ』

『え……?』