すべてはあの花のために⑦


 葵は、絵本を大事に抱えて、今日も花畑へとやってきた。


『はっ、はっ』


 駆けて行くと、今日はルニが先に待っていてくれた。


『あ! ……っ、る、るにちゃ――うっわあ!!』

『え!? は、はな――……んっ!』


 葵は、足下にいた蛙を避けようと、慌てて着く足を違うところに外したら、思い切りルニに突っ込んでしまい。まさかのお口とお口がごっつんこ。


『!?!? わわわ! ご、ごめんねルニちゃん……!』

『…………』

『いやだったね? ごめんね? うわ~……。どうしよう。お口同士は特別じゃないといけないのにいぃ……』


 葵は、無言で自分の唇を触っているルニに、なんて言ったらいいのかわからなかった。


『…………』

『あわわ。……ど、どうしよう……』


 葵が一人で慌ててる姿を、ルニは観察してたりもする。


『……ハナちゃん、嫌だったでしょ。ごめんね?』

『ええ!? いやいや! わたしが突っ込んじゃったんだもん! こっちこそ、ごめんなさいぃ……』


 葵は花畑に頭を擦りつけながら謝った。


『どうしよっかな~?』

『え!? る、るにちゃん……!?』


 目の前の彼女は、ニコニコ楽しそうに笑っていた。


『(あ。……でも、家で見る笑い方とは全然違う……)』


 なんだか、本当に楽しそうだなとは思ったけれど。


『責任とってもらおっかな~?』

『ええ……!?』


 何を言われるんだろう……と、葵は少し顔を青くした。


『…………じゃ、……った……』

『ん? なに? ルニちゃん』


 何かを小さく呟いているルニは、どこかぼーっとしていた。


『(さっきまで楽しそうにしてたのにな……)』


 そうしていると、ルニが『何でもないっ』と言ってまた花で遊びはじめた。


『え? ……い、いいの?』

『うん。冗談だし』

『……許してくれる?』

『え? ……許すも何も、あれ事故だし』


『だから、また遊んで?』と、そう笑って言ってくれるルニに、やっぱりこれを渡したいと思った。


『……あ。あのね? ルニちゃん』

『ん? なに? ハナちゃん』


 大きく頷いたあと、葵はそう言って、大事に抱えてきた絵本をルニの前にそっと差し出す。


『……ん? なに? これ』

『こ、この絵本。ルニちゃんにもらってほしいのっ!』


 ルニは絵本に手を伸ばして、それをじっと見ていた。


『英語……【ざ なめ おふ ざ ふろうぇー】?』

『ははっ。違うよ~ルニちゃん』


 そう言って葵はルニの横にぴったりと座って、絵本の題名に触れる。


『【ざ ねいむ おぶ ざ ふらわー】って読むんだよ?』

『……知ってるし』

『あ! 拗ねてる! かわいいっ』

『名前……。花……』

『うんうん!』

『……花の、名前……?』

『うん! そうそう! すごーい!』