葵は、絵本を大事に抱えて、今日も花畑へとやってきた。
『はっ、はっ』
駆けて行くと、今日はルニが先に待っていてくれた。
『あ! ……っ、る、るにちゃ――うっわあ!!』
『え!? は、はな――……んっ!』
葵は、足下にいた蛙を避けようと、慌てて着く足を違うところに外したら、思い切りルニに突っ込んでしまい。まさかのお口とお口がごっつんこ。
『!?!? わわわ! ご、ごめんねルニちゃん……!』
『…………』
『いやだったね? ごめんね? うわ~……。どうしよう。お口同士は特別じゃないといけないのにいぃ……』
葵は、無言で自分の唇を触っているルニに、なんて言ったらいいのかわからなかった。
『…………』
『あわわ。……ど、どうしよう……』
葵が一人で慌ててる姿を、ルニは観察してたりもする。
『……ハナちゃん、嫌だったでしょ。ごめんね?』
『ええ!? いやいや! わたしが突っ込んじゃったんだもん! こっちこそ、ごめんなさいぃ……』
葵は花畑に頭を擦りつけながら謝った。
『どうしよっかな~?』
『え!? る、るにちゃん……!?』
目の前の彼女は、ニコニコ楽しそうに笑っていた。
『(あ。……でも、家で見る笑い方とは全然違う……)』
なんだか、本当に楽しそうだなとは思ったけれど。
『責任とってもらおっかな~?』
『ええ……!?』
何を言われるんだろう……と、葵は少し顔を青くした。
『…………じゃ、……った……』
『ん? なに? ルニちゃん』
何かを小さく呟いているルニは、どこかぼーっとしていた。
『(さっきまで楽しそうにしてたのにな……)』
そうしていると、ルニが『何でもないっ』と言ってまた花で遊びはじめた。
『え? ……い、いいの?』
『うん。冗談だし』
『……許してくれる?』
『え? ……許すも何も、あれ事故だし』
『だから、また遊んで?』と、そう笑って言ってくれるルニに、やっぱりこれを渡したいと思った。
『……あ。あのね? ルニちゃん』
『ん? なに? ハナちゃん』
大きく頷いたあと、葵はそう言って、大事に抱えてきた絵本をルニの前にそっと差し出す。
『……ん? なに? これ』
『こ、この絵本。ルニちゃんにもらってほしいのっ!』
ルニは絵本に手を伸ばして、それをじっと見ていた。
『英語……【ざ なめ おふ ざ ふろうぇー】?』
『ははっ。違うよ~ルニちゃん』
そう言って葵はルニの横にぴったりと座って、絵本の題名に触れる。
『【ざ ねいむ おぶ ざ ふらわー】って読むんだよ?』
『……知ってるし』
『あ! 拗ねてる! かわいいっ』
『名前……。花……』
『うんうん!』
『……花の、名前……?』
『うん! そうそう! すごーい!』



