すべてはあの花のために⑦


 言いきる前に、少女が葵のことをぎゅうっと抱き締めてきた。


『え……? え……??』


 少女は抱き締めてきてくれて、葵にふわりと、綺麗な笑顔を見せてくれる。


『(……。あったかい……)』


 体も心も、少女のそんな仕草だけであったかくなる。


『……どう?』

『え……?』


 また完全にあっちのペースである。


『な。……なにが?』

『スッキリした?』


 そう聞いてくる少女に。葵はよくわからなかったので首を傾げた。


『……よく。わかんない……』

『ま、そうだろうね』

『え……!?』


 そんなことを言って、少女は葵から離れて、また隣に座った。


『じゃあ、スッキリするまで言ったらいいよ』

『えっ?』


『ほら、早く言え』と、少女が目で急かしてくる。葵は慌てて、たくさんの気持ちを言葉にした。
 やっぱり涙が出て、言ってもどうにもならないんだってことがちゃんとわかった。でも、なんだかそんなことを言ってる自分がバカらしくなって、途中から笑いが漏れる。


『禿げっ。ケバ嬢っ。……ははっ』

『…………?』


 でもお腹を抱えながら、目元に涙の雫を付けて笑っている葵を見て、少女はふっと頬が緩んだ。


『……やっと笑った』

『え……?』


 たったこれだけのことで、少女は嬉しそうに笑顔を向けてくれた。


『すごくきれいでかわいかったから、笑った顔が早く見たかったの』

『わ、わたしなんかきれいじゃないし。かわいくなんか……あ。あなたの方が、とってもかわいいよ?』

『……かわいくないよ。だってあたしは汚いもん。真っ黒だもん』


 確かに少女は真っ黒の髪で、とてもそれが綺麗だ。


『そんなことないよ? 黒くてとってもきれい。……わたしの方が、もう真っ黒だよ。汚れちゃってる』

『あなたはきれいだよ!』

『ううん! あなたの方が!』


 そんな言い合いをしているのも、なんだかバカらしくなった。


『あ。そろそろ行かないと』

『え……』


 どうやら、お別れの時間のよう。


『今、友達と遊んでるの。それから今脱出してきたから、時間かせぎもきっとここまでが限界』

『(それ、遊ぶのから逃げてきたのでは……?)』

『……また、会える?』

『え……』


 不安そうに、少女は尋ねた。


『……また。会ってくれる……?』


 葵も、会いたかった。少女と一緒にいるだけで、胸が温かくなったから。
 葵も不安そうに聞くと、少女はうんと小さく頷いてくれた。


『……それ、あげる』

『え?』


 そう言って少女は葵の頭を指差して、走って行ってしまう。


『忘れないでね? また会って?』

『……っ、うん! 約束だよ!』


 そう言ってお互い手を振って、会う度最後は『またね』と、次の約束をして帰った。

 葵は、ここに来るのがとても楽しみだった。来たら最初は絶対に泣いて。泣くのが落ち着いた頃、少女は葵を抱き締め、にこっと笑ってくれた。
 なんでそうしてくれるのか聞いたら、『だって、笑って抱き締めてって言ったから』って。やっぱりばっちり聞こえてたみたい。でもそうしてくれるのが嬉しくって、葵も少女にぎゅうっと笑いながら抱きついたりした。