すべてはあの花のために⑦


『……うん。言え、ないんだっ』


 そう言って苦しそうに俯いて声を出す葵に、少女は覗き込むように見つめてくる。


『だったら聞かないであげるよ?』

『え……?』


 そう言って少女は耳を塞いだ…………振りだけで、完全に塞がっていない。


『話せないんでしょ? だから、聞かない振りしてあげる』

『…………』


 完全に振りって言ってるし。聞く気満々だし。


『声に出してみてよ』

『……どう。して……?』

『聞きたいから』

『え……?』

『あ。間違った。でも、声に出したらスッキリかもしれないよ?』

『…………』


 全然違いますよね。前半が本音ですよね。


『……だって。ずっと声、聞いてみたかったんだもん』

『……あり、がと……?』

『ずっと泣いててさ? ……あ、あたしが、何とかしてあげたいなって思って』


 そう言って少女はふわりと葵に笑いかけてくれた。自分に向けてくれたこんな綺麗な笑顔。久し振りだ。


『……そうなんだ』


 知らなかった。ここに来たら、お花に話を聞いてもらうので精一杯で。
 きっと、見えてはいたけど、声の届かないところでこの少女は見てくれていたんだと思った。

 ……なんだか、とってもあったかくなった。
 嬉しいな。ちゃんと自分を見てもらえるなんて。

 それなら少女の案に乗ってみよっかなって、ちょっと思った。


『……声に。出してみる……』

『あ。そう?』

『だから。……ちゃんと塞いでてね?』

『わかった』


 きっと塞ぐことはないんだろう。だったらこの、今の気持ちだけでも声に出してみよう。葵はそう言って立ち上がった。


『こんの…………ばっきゃろー!!』

『……!?』

『ふざけんなー! くそー!!』

『え? え……?』


 そんな言葉が出てくると思わなかったのか、少女はめちゃくちゃビックリしていた。


『なんでわたしがそんなことせんにゃならんのじゃーい!!』

『??』

『なんでわたしばっかりっ!! わたしっ。ばっかりっ……』

『…………』


 葵は膝から崩れ落ちて、また涙を流す。


『つらいっ。つらいよっ……』

『…………』

『くるしいっ。……っ、いやだっ。いやだよお……』

『…………』

『なんでこんなことっ。……かなしいっ。いやだっ、もう……っ』

『…………』

『……さみしいよぉ。会いたいっ。……また、ぎゅってしてよ……っ』

『…………』

『わらってよっ。……おいしいごはんっ。たべたい。……はたけしごともっ。おてつだい。ちゃんとするから……っ』

『…………』

『だからっ。もういっかい、だきしめてよっ。……しあわせそうにっ。わらって――……!?』