『……うん。言え、ないんだっ』
そう言って苦しそうに俯いて声を出す葵に、少女は覗き込むように見つめてくる。
『だったら聞かないであげるよ?』
『え……?』
そう言って少女は耳を塞いだ…………振りだけで、完全に塞がっていない。
『話せないんでしょ? だから、聞かない振りしてあげる』
『…………』
完全に振りって言ってるし。聞く気満々だし。
『声に出してみてよ』
『……どう。して……?』
『聞きたいから』
『え……?』
『あ。間違った。でも、声に出したらスッキリかもしれないよ?』
『…………』
全然違いますよね。前半が本音ですよね。
『……だって。ずっと声、聞いてみたかったんだもん』
『……あり、がと……?』
『ずっと泣いててさ? ……あ、あたしが、何とかしてあげたいなって思って』
そう言って少女はふわりと葵に笑いかけてくれた。自分に向けてくれたこんな綺麗な笑顔。久し振りだ。
『……そうなんだ』
知らなかった。ここに来たら、お花に話を聞いてもらうので精一杯で。
きっと、見えてはいたけど、声の届かないところでこの少女は見てくれていたんだと思った。
……なんだか、とってもあったかくなった。
嬉しいな。ちゃんと自分を見てもらえるなんて。
それなら少女の案に乗ってみよっかなって、ちょっと思った。
『……声に。出してみる……』
『あ。そう?』
『だから。……ちゃんと塞いでてね?』
『わかった』
きっと塞ぐことはないんだろう。だったらこの、今の気持ちだけでも声に出してみよう。葵はそう言って立ち上がった。
『こんの…………ばっきゃろー!!』
『……!?』
『ふざけんなー! くそー!!』
『え? え……?』
そんな言葉が出てくると思わなかったのか、少女はめちゃくちゃビックリしていた。
『なんでわたしがそんなことせんにゃならんのじゃーい!!』
『??』
『なんでわたしばっかりっ!! わたしっ。ばっかりっ……』
『…………』
葵は膝から崩れ落ちて、また涙を流す。
『つらいっ。つらいよっ……』
『…………』
『くるしいっ。……っ、いやだっ。いやだよお……』
『…………』
『なんでこんなことっ。……かなしいっ。いやだっ、もう……っ』
『…………』
『……さみしいよぉ。会いたいっ。……また、ぎゅってしてよ……っ』
『…………』
『わらってよっ。……おいしいごはんっ。たべたい。……はたけしごともっ。おてつだい。ちゃんとするから……っ』
『…………』
『だからっ。もういっかい、だきしめてよっ。……しあわせそうにっ。わらって――……!?』



