「翼くん。言った通りだったろう?」
「信人、さん……」
『大丈夫だ。君にもいつか、その時が訪れるよ。……そう。遠くない未来に』
「どうして葵がこの『願い』を叶えようと思ったか、みんなはもうわかるでしょう? 知ってるでしょう?」
叶えたんだ。本当に。
どうせ無理ばかりしたんだろうけれど。それでも、彼女がまだ存在していることが、そしてみんながこうして変われたことが、自分にとってもすごく嬉しいことだった。
「みんなが葵にとって初めての友達だったから。葵にとって、とっても大切な人たちだったからだよ」
「……っ、そんなん、十分わかってるしっ……」
ぐっと、握り拳に力を入れながらチカゼが俯く。
でもきっと、彼だけではない。この場の全員が、『十分わかってる』と思ってくれていた。
「なんで理事長がそんなお願いをしたのか。それは君たちの問題に家が絡んでたから。確かに、海棠が何とかできたかもしれないけど、それじゃあ本当の解決になんてならない。……ま、どっちかっていうと理事長とそれから朝倉先生は、家だから『手が出せなかった』っていうのが正しいかな」
みんなも、どこか心当たりがあるのだろうか、視線をそれぞれ外している。
しかし、それは【本当】を上手く隠したものだ。根本は、もっと奥深くにある。
「……ま、それは表の理由だけど」
「え? どういうことですか?」
そのことは知らないキサと、それからトーマも首を傾げている。
「確かに葵は、その理由で『願い』を叶えることにしたし、理事長もその理由で葵に頼んだのは間違いない。……でも、それにはもっと深い理由があったってこと」
「しーくん。そう言うってことは、それは教えてもらえない?」
「……そうだね。その理由できっと、葵はみんなに嫌われると思っているだろうから」
――願いを叶えるに至った、『本当の理由』。それこそが、葵が自分たちに一番言いたくないこと。
ということは、反対に言えば『それを知れば、葵は自分たちに全て話してくれる』ということ。
「……俺が思うに、葵は絶対に言わないと思うよ」
「どうして、ですか。しんとサン」
「……言いたくないんだ。絶対に」
「シントさんは、それを聞いてどう思ったんですか?」
「え? 俺?」
「はい。オレらは知らないけど、シントさんは知ってるんですよね」
そう聞いてくるヒナタは、どこかみんなよりも達観してるように見える。
「(……やっぱり、この子は葵から何か聞いているのか)」
……これは、達観か? ……本当に?
何か違和感を感じる彼は、ひとまずは置いておくことにして、シントは一度目を閉じた。



