11年前の7月11日。
『ねえ、今日わたしたん生日』
『あら? そうなの』
『そうだったのか。それは知らなかった』
といっても、赤が生まれた日だ。葵の本当の誕生日ではない。
『なんかないの? 子どもにプレゼントやるものでしょ』
『そうね~』
『何がいいんだ』
この頃はまだ、赤は二人と一緒に暮らしていた。まだ何も、知らなかったから。
『“すめらぎ あきら”』
『『??』』
『だから、この間のたん生パーティーの主役。彼がいい』
『それは……』
『……ははははは!!』
赤がそう言うと、エリカは口と目を開いて驚いているのに対し、アザミは大きな声で嗤い出す。
『……なに』
『いやいや、流石は私の娘だと思っただけだ』
『くれるの、くれないの』
『いいだろう』
そうアザミが言ってくれる。
『(……そっか。よかった。彼ならきっと……)』
『ただし条件がある』
次に見たアザミの顔は、異常なほど口角が上がっていて、恐ろしかった。
『……な、なに……?』
『本格的に私の仕事を手伝ってもらう。それが条件だ』
『あら。それはいいわね』
『え? 前みたいに……? あなたの質問に答えたらいいの?』
『それはもちろん続けてもらう。でも相手はあの皇。倒れかけの道明寺など、相手にしてくれまい』
『……なにをするの』
『お前にはあるものの開発、及び配送経路の主軸を担ってもらう』
『は? あるもの? なにそれ』
『……ふっ。ふふ、ふはははっははは!!』
今まで、こんなアザミを見たことなどなかった。壊れた玩具のように笑い出し、何か面白いゲームを楽しんでいるようだ。
『薬だ』
『は? ここは製薬会社なんか持ってないでしょうに』
『あるところと提携を結ぶ予定だ。そこと、開発予定の薬をお前がまとめろ』
『……何言ってるの? 正気?』
『ああもちろんだ。何せその薬は、薬物を元にして作っていく予定だからな』
『……!!』
赤は勢いよく立ち上がる。――そんな話なんか聞いていない。
『何言ってるの!? そんな犯ざいに手を染めるようなこと! できるわけない!! けいさつにつきつけてやる!!』
『警察も、こちらの手の内だと言ったら?』
『……何、言って……』
『この開発を持ちかけてきたのは今の国務大臣。頭のいいお前なら、知っているだろう? 警察の上には彼がいる。その彼と繋がっているんだ。……この意味。わかるな?』
『……そんなの、しょっけんらんようじゃない。そんなの! わたしが今からけいさつに言って』
『いいのかしら~?』
急にエリカが割り込んでくる。
何がというんだ。悪いことをしているんだ、それは警察にきちんと言って、彼らを、捕まえて……。
『残念だがな、一番罪が重いのは【お前ら】だ』
『はあ!? 何言ってるの! わたしが一体何を、……え。ま、まさか……』
『そう~。よくわかったわね? やっぱり頭がいい子はラクでいいわ~』
『お前が計画したことを、私たちが実行に移したまで。……重罪だな。お前はきっと死ぬだろう。もう一人のお前とともにな』
『……っ!』
『ねえ~? 今まで助けてあげてたんでしょう~? それでいいの~?』
『お前が大切にしているお前を、殺していいのか?』
『……。な、んでっ……』
赤はもう、立っていられなかった。
今まで何度も助けてきた葵が、死ぬのだけは嫌だったから。



