すべてはあの花のために⑦


 ちょっと残念そうに落ち込む彼に、“重なるはずもないもの”が重なって、胸がきゅっと締め付けられる。


『……でも。もうちょっといる』

『……いいの?』

『お話、聞いてあげるよ? どうして寂しそうなの?』


 そうだ。彼は寂しそうなのだ。
 赤がそう言うと、彼は目を見開く。


『なんでわかるの』

『え? 顔?』

『おれ、無表情でゆうめい』

『そ、そうなんだ……』

『だから、なんでわかるの?』

『……勘、かな』

『ふーん』


 なんだか納得してないようだったけど、小さく彼は寂しい理由を零す。


『……きょう。おれのたんじょうび』

『そうだね。おめでとう』

『……でも、かあさんとしんにい、いない』

『え?』

『だから、ちょっとさみしい。いつも祝ってくれるのに。知らない人に祝われたってうれしくない。……とうさんもしごと。おれひとりだし。さみしかった』


 そう言って膝に顔を埋める彼を見て、赤の心の奥底が大きく揺れた。


『(……やっぱり、似てるから、か……)』


 ふうと一つ、赤は息を吐いた。


『……きっとだいじょうぶ』

『……? なにが』

『お祝い、してくれるよ』

『……でも、いないもん』

『だいじょうぶ。今までずっと祝ってもらってたんでしょう? だったらちゃんと祝ってくれる。大丈夫』

『……そっか。うん。ありがとうりんごさん』

『り、りんごさん……?』

『まっかなどれす。まっかなかお。……うん。りんごさん』

『そ、そう……』


 でもまあ、名乗れるわけじゃない。


『(……でもわかる。これは、わたしの『好き』だ)』


 未だにバクバクいってる心に、手を当てる。


『(……わたしは、やると決めたらとことんやる)』


 もう時間だ。流石にアザミに怒られるだろう。その時ちょうど、彼のスマホにも電話が入る。きっと、母と兄からだ。
 嬉しそうな横顔を見ながら、赤はその場を去って行った。


『(……決めた。絶対あの子にする)』



 標的となった花は…………


                  蘭
                  の
                  花。