11年前の6月20日。
『いいか。失礼のないようにな』
『わかってます』
あそこに引き取られてからの葵は、しばらく情緒不安定だったため『赤』の時間が長かった。その赤を連れて、アザミはとある財閥の息子の誕生パーティーに来ていた。
『……つまんない』
『我慢しなさい。もう少しだ』
赤いドレスに身を包み、赤い瞳をしている珍しい少女だと、葵はまわりの注目の的だった。
それだけではない。滅多にこういう場に出てこない道明寺が、実の息子を差し置いて、引き取ったどこの子かもわからない娘を連れてきていることに、ほんの少しの間この業界で話題になった。
そして、今夜のパーティーは夜が遅いこともあったせいか、小さな子どもの姿は二つしかなかったので余計目についたのだろう。
『……もういい?』
『はあ。わかった。もうすぐ帰るから、目の届くところにいなさい』
そんなの知ったことかと、赤は真っ先にパーティー会場を抜け出した。
『はっ。はっ。……っ、ええ!?』
走っていたら、何かに躓いてずべーんと滑って転んだ。
『っ、たあ~……。なに……?』
赤は、一体何に躓いたのかと、足下を見た。
『(え……? この子って……)』
さっきみんなにお祝いをされていた今日の主役の彼だった。
『……死んで、ないよね……?』
赤が恐らく踏んづけたのにもかかわらず、彼はビクともしなかった。
『すう……。……すう……』
『……寝てる』
気持ちよさそうに眠っていた。
確かに今はもう22時を回っている。普通の子供なら、いい子で寝てる時間だ。
『(ま、わたしは今からが本番って感じだけど……)』
そう思っていると、彼が身動ぎして目をゆっくり開けた。
『えーっと。……おはよう? よくお眠りだね』
『……かあ、さん……?』
『(え……。そんなに老けてない……)』
『あ。ちがうか。……きれいだったから』
『え』
『きみも抜けだしたの?』
少年はさらっと話題を変えた。
『……えっと。うん。そう……』
でも、赤の顔の熱は治まらなかった。
『(……もしかして、あの子にちょっと“似ている”から……?)』
『ふーん』
興味なさそうにそう返事をする彼でさえ、素敵に見えてくる。
『……きれいな、長い黒かみ……』
『……っ、え……?』
半分まだ寝ぼけているのか、赤の髪に手を差し入れる。
『さらさら。…………あ? どうしたの? ねつ……?』
そう言って彼は、こつんと自分のおでこを当ててくる。
『……!』
『……まっか、だね』
『(……だれのせいだと……!)』
『どうする? きゅうごしつ、いく?』
『……い、いいです。だいじょうぶ。もうすぐ帰らないといけないし』
『……そっか』



