そんな、葵の顔が引き攣っていたのがわかったのか、ヒイノが引っぺがしてくれた。
『出来たの。受け取って?』
『え? ……ひいのさん?』
そう言ってヒイノが渡してくれたのは、あの絵本。題名は、【|The name of the flower...《その花の名前は》】
『これを、あなたが信じることができる、大切で、大好きな人に渡しなさい』
真剣な面持ちで、ヒイノはそう言ってくれている。
『……だったら。ひいのさんたちに、持っててもらいたい』
『わたしたちなら大丈夫』
『ああ。ちゃんと覚えてるからな』
そう言って二人は、自分の心に手を当てる。
『……? でも……』
『あおいちゃん。これ、一つしかないの』
『え!? ……た。たいへん』
『だから、あなたが本当に信用できる人に渡して? ……あの家には絶対に渡さないで』
『……? あざみさん? どうして……?』
『……ごめんなさい。それは言えないの』
『でも、これはあおいのためなんだ。自分の大事な人に。守ってあげたいって思う人に渡しなさい』
『でも……』
『きっと、あなたがそう思うってことは、向こうもそう思ってくれているはずだから』
『だから、自分を信じろ。そして、その人を信じろ』
二人の目が、あまりにも真剣すぎて、逸らせられない。
『……はい。わかりました。約束、ですね……?』
『ええそう。……あともう一つの約束、覚えてる?』
そう言ってヒイノは、葵の首にもう一度あのネックレスを掛けてくれた。
『え。……でも、もう返せないかもしれないから……』
『いいえ? 絶対に返してくれるわ? あおいちゃんは、約束を破るような子じゃないもの』
『ひいのさん……っ、はい。ぜったいに返しに来るね! 約束!』
そして二人は、小指を出し合って約束をした。
そして最後、二人して葵をぎゅっと抱き締めてくれる。
『いつでもここがお前の家だからな』
『いつでもここがあなたの家だからね』
その言葉に、葵は涙が止まらなくなった。
『(……ごめんなさいっ。わたしといなかったら。もっとしあわせだったのに……っ)』
ぐっぐっと、葵は涙が流れてくる目元をぐっと押さえ堪えて、最後は笑顔で別れを告げた。
『それじゃあ! また会いに来ますね!! ひいのさん! みずかさん! 今までありがとう!! いってきます!!』
そう言って葵は、笑顔のアザミの手を取って花咲家を出て行ったのです。
……それがもう。間違いだなんてことに気付いても遅いけれど。



